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うちと隣の事情 


「馬鹿たれがっ!」
 会社から家に帰ってくるなり、親父が怒っていた。
 それまで居間のソファに寝転がってマンガを読んでいたのだが、その怒声に呆れながら親父の様子をこっそりと眺めた。堂々と眺めるのではなく、こっそりなのは頭に血が上っている親父を刺激して、とばっちりを喰らわないための生活の知恵だ。
 乱暴な手つきで引き千切るような勢いで外したネクタイを投げ捨て、居間の床に靴下を放り投げる。
 どうやら一杯入っている様子。
 しかしそれにしたところで、いい歳した大人のする事じゃない。まるで駄々っ子のやるような態度だ。
 怒っている事だって、どうせ、お隣さんのことだ。
 何かあれば怒っている。もう慣れっこになってしまったけど、考えてみれば、おれが物心ついた頃には既に事あるごとに喧嘩していたような気がする。最初に何が有ったのか知らないけど、昔からいがみ合っているのは確かだ。
 お互いに執念深いとしか言い様がない。自分の親ながら呆れてしまう。
「いつか白黒つけてやる」
「ああ、そうですか」
 母親も半ば呆れ顔だ。「いつまでも怒ってないで、いいかげん仲直りしてくださいよ。ほんと迷惑なんだから」
「うるさい、うるさい、あいつが頭下げてきたら、いつだって赦してるんだがな」
「そんなこと言って、最初のとき赦さなかったでしょう、それがずっと尾を引いてるのに。もうお互い様なんだから。お隣のご主人も、きっとそう言ってますよ」
 うちの母親と隣のおばさんは仲良しだ。
 おっとりした、料理の得意なおばさんの顔を思い出す。おれも隣の息子とは中学の同級生で小さな頃から仲のいい遊び友達、つまり幼馴染だったりする。何度も、遊びに行っては手作りのオヤツを貰ったし、それはこちらも同様で、互いに行き来している間柄だ。
 つまり仲が悪いのは、親父たち、中年のおっさん同士だけ。
 さすがに親同士の喧嘩だと、とばっちりを喰ったりするので母親が言うように迷惑至極な話だ。
 いいかげんに止めて欲しいと思っているのは、おれだけじゃない。
「白黒つけるって、馬鹿なことしないで下さいよ」
 そういえば何年か前だったか、どこか他所の話だけど、仲の悪い隣同士で殺人だの物騒な話を聞いたことがある。そんな事になってしまったら、こちらの人生まで真っ暗だ。
「白黒か……、白黒ねえ、そうだ!」
 ソファに寝転がったまま、おれはマンガを読みながら適当に言った。「白黒つけたいんだったら、いっそのことオセロでもして勝負つけたらいいんだ? 勝っても負けても文句なしの一本勝負。それで水に流したらいい」
「それ、いい考えね」
 笑いながら母親。「そういう白黒なら平和でいいわ」
「うるさい!」
 怒鳴ると同時に、親父はくしゃみを連発した。
 くしゃみしながら顔を真っ赤にして怒鳴った。「黙れっ!」
「あらあら、お隣でも噂話かしらね」
「だろうねえ、向こうのおじさんも」
 隣家でも同様の光景が繰り広げられているのだろう。
 その光景が簡単に想像できてしまい、思わず吹き出さずにはいられない。苦笑しながら、おれは窓の向こう側を眺めた。
 窓の外には桜が咲いている。
 薄いピンクがかった白い花びらが風に緩やかに舞っている。
 それは春色に染まる毎年の我が家と隣家の風物詩だ。
 新興住宅地の互いに狭い庭だけど、こちら側の敷地に一本、向こう側に一本、隣家同士で同じ時期に子供が産れたのを記念して植えたそうだ。おれと同い年の桜の木は、すっかり大きくなって、いまでは毎年春になると見ごたえのある花が咲くようになった。
 きっとそうやって桜の苗木を植えた当時は、まだ仲が良かっただろうなあ、って思う。今では考えられない事なんだけど。
 それが今では、桜の木に虫が付いただの、枝が向こう側まで伸びただの、葉が繁りすぎただの親父同士の争いのネタに成り下がった。そんな事なら、よほど切り倒してしまえばいいと思うのだけど、意地の張り合いか、こちら側が下手に出るような、そういう事は出来ないらしい。
「ねえ、母さん」
 怒気で頭から湯気が出そうな赤い顔をした親父が居間から出ていったあと、夕飯の支度をしている母親に声をかけた。「いつも喧嘩してるとけど隣のおじさんと、いったい何が発端なわけ? 今まで聞きそびれてたけどさ」
「父さん、いまは煙草吸わないけどね、むかし禁煙しようとしてたとき、お隣のご主人に煙を吹きかけられたらしいの」
「はあ?」
「町内会の寄り合いで、少しお酒が入ってて、そんな事があったらしいんだけど、お隣さんは何も覚えてなくて……。それでも、あちらは謝ったのに、どうしても赦して上げなくて。煙草止めようとしてして、苛々してたにしてもねえ」
「それで喧嘩って」
 おれは半ば呆れながら続けた。「なんだか大人げない話だね」
「そう。嫌煙だけに犬猿の仲ってのはねえ……」



《終わり》






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