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続山月記(17) 


「青――、青、どこにいるの」
 近道の中庭を横切って直接向かった部屋に、弟の姿は無かった。その隣の亮の部屋にもいない。
 屋敷の中は人気がなく、ひっそりと静まりかえっていた。屋敷から抜け出した時は、召使たちに見つからぬよう、彼らの目を避け、足音を忍ばせて歩く必要すらあったのだ。しかしその召使たちの姿もない。
 いや、屋敷の中には人のいる気配すらないのだ。
「小螢、いないのかい」
 亮の声に返事は無い。
 相変わらず静まり返ったままだった。
 いやな胸騒ぎが次第に大きくなっていく。
「誰か――、誰かいないの」
 ほとんど悲鳴に近い声で亮は叫んだ。
 だが、その声に答えは無く、静まりかえった屋敷の中に、かすかに反響し、やがて消えていった。
 山狩りで男たちが出払っているにしても、召使の女たちはいるはずだ。
 しかも間もなく昼食の時刻なのだ。いつもなら陽気で賑やかな声が炊屋から聞こえていた。だが、そうした気配はみじんも感じられない。
 物音ひとつしない。亮の足音だけが、ひたひたと響いでいるだけだ。
「誰もいないの?」
 遠慮がちに炊屋の戸を開けた途端、つん、と生臭い匂いが亮の鼻をついた。
「わ、な、なんだ……」
 亮は炊屋の中の光景が、瞬時には理解できなかった。
 赤い――、見慣れない色に床が染まっていたのだ。そしてその色彩に浸るように、ごつごつと異様なものが転がっている。
 異様なもの――、それは引き千切られた人の首だった。
 醜く潰れた虚ろな眼が亮を見つめていた。
 よく見知っている顔に怯えた最後の表情が凍り付いていた。
 最後の叫びそのままに、口が大きく開かれている。それは横向きに倒れたまま、血の海に浸っていた。
「小螢っ、うわああっ……」
 それは見慣れた少女の変わり果てた姿だったのだ。
 その他にも、かつて肉体の一部だったものが無造作に散乱している。
「ひっ――、うっ……」
 それを理解した瞬間、亮は激しい嘔吐に襲われた。
 へなへなと腰を下ろし、激しく吐いた。
 我慢など到底できなかったのだ。亮の足元まで赤黒い血潮が流れ及んでいた、しかしもう何も亮の目には入らなかった。
 やがて吐くものが無くなり、口中の惨めな苦みがようやく亮を我に返らせた。

《続く》






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