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続山月記(19) 


 芳しい若草の香が辺りを漂っている。
 薄い雲を通して陽光が一面の草原に降り注いていた。柔らかく暖かい日差しだ。
「うーん、よう寝た」
 伸び放題の草の間から身を起こしたのは老人だった。
 たった今、目覚たらしい。見事な長い白髭は、まるで頬から流れているようだ。柔和そうな細い目には穏やかな笑みが浮かんでいる。
「これ、李徴子。おらぬのか」
「はい、ここに」
 その声と時を同じくして、岩間に影が動いた。いや、正確には影が動いたわけではない。
 それまでは巌のように微動すらせず岩陰に蹲り、老人の声に応えて、のっそりと起き上がったのは、白い――、新雪のような純白の巨大な虎だった。しなやかに足を運び、老人の許に歩み寄る。
 白虎が口を開いた。その口から流れ出たのは紛れも無く人語だ。
「お目ざめですか、師父さま」
「おお、よう寝たわい。いや、多少、寝過ごしたようじゃ」
 それだけを穏やかに言い、老人は微かに眉を顰め、軽く目を閉じた。「僅かに気が乱れておる。愚かな輩が妖かしを使っておるようじゃな」
「妖かし――、それでは邪法が行われているのでございますか」
「うむ、そうじゃ。しかし気を大きく乱すほどの術ではない故、大方の者は気づいてはおらぬはず。無論、あの方も気づいておろう」
 老人は目を開き、遥かに遠い山の頂に目を向けた。
 その視線の行方を白虎も追う。
「西王母さまですか」
「うむ」
 老人は目を向けたまま、かすかに頷いた。
 その視線の先には、瑞雲がたなびく彼方に白銀のような山々の連なりが、遥かに遠く延々と続いている。
 その偉容は天と地を分ける壮麗な壁だ。
 それが崑崙の山並みだった。山々の中に一際、高くそびえ立つ峰の頂に、西王母の宝閣はある。その彼方に目を凝らせば、かすかに弦楽の響きさえ聞こえてくると云う。
「今はまだ微弱な乱れでしかないがのう、しかし、その根底には危険な意図が見え隠れしておる。このまま座視しておると、この崑崙そのものを揺るがすようなことになるやも知れぬ。大事になっては後始末が大変じゃ、災いの芽は早めに摘むのに限る」
「師父さまが自ら赴いて、その悪い芽を摘まれるので」
「そうさの。たまには下界の空気を吸うのも一興かも知れぬ。そこで頼みがある、そなたの背に乗せていってもらえぬか」

《続く》






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