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続山月記(26) 


「助けて、助けて……」
 亮は闇の中を走っていた。
 墨を流したような闇の中。何の明かりもなく、一寸先も見えない。
 足元がチャピチャピと音を立てている。まるで浅い沼のようだった。
 どこまでも軟泥のような感触が続いている。その深さは一様ではなく、時々、深かみに足がはまり込んでしまい、そのたびに転びそうになる。足場は悪く、よろけながら、それでも亮は必死で走り続けた。
 何か恐ろしいものが迫ってくる、そんな気がしたのだ。
 その正体は知れない、だが、その気配と視線だけは背中にひしひしと感じている。
 はぁ、はぁ……。既に息が切れ、疲労に身体が重かった。
 動悸が激しく、そろそろ走り続けるのも限界なのが自分でも判る。
(何が……、何かが……)
 亮は走りながら、背後に迫る『怖いもの』の正体を必死で考えている。
(追いかけてくるんだ、でも何なのだろう……)
 足音がするわけではない、物音がするわけでもない。
 ただ背後から迫る気配だけが異様に濃い。何かが自分を迫っているのだけは判るのだ。
(これは錯覚なんだろうか、それとも怯えているからなんだろうか……。立ち止まってみようか……)
 一瞬、そんな考えが頭をよぎった。
 それは悪くない考えのように思えた。もう息が苦しく、身体中が悲鳴をあげていたのだ。立ち止まる――、その誘惑に耐えられそうになかった。
 背後の気配に注意しながら、足の運びをわずかに緩める。その刹那、何かが風を切るような音が響いた。そして亮の背中に激痛が走る。鋭い刃で切り裂かれるような痛みだ。
「ギャッ……」
 その瞬間、亮はバランスを失った。
 地を覆う軟泥に頭から倒れ込んだ。
 その軟泥は生暖かかった。べったりと身にまとわりつくようだ。口に紛れ込んだそれは血の味がした。濃厚な血の臭いに吐きそうになりながら、両手で身体を支えて、なんとか立ち上がろうとする。
 が、立てなかった。足が痛い――!
 倒れたはずみに、ひねりでもしたのか、力が入らないのだ。
 ヒタヒタ……、ゆっくりと足音が近づいてくる。
(もうだめだ……)
 亮は絶望した。
 それでも立ち上がろうと必死にもがく。しかし半身を起こすのがやっとだった。
 闇の中に何かが近づいてくる。何が近づいているのか判らなかったが、その正体を見定めてやろう、そう亮は心に決めた。
 ようやく身体を翻すと闇に向かって、目を見開いた。目だけでなく、五感全てを闇の彼方に凝らし、待ちかまえたのだ。相変わらず濃厚な闇だった。何も見えない。自らの下肢すら闇の中に溶け込むように消えていた。
 ふいに足音が消えた。
 静寂だ。静まりかえっている。自分の鼓動の音だけがしか聞こえない。
 まるでその音が周囲に響き渡ってるような錯覚にとらわれた。だが何かの気配は確実に近かった。闇の彼方から刺すような視線を亮は感じていたのだ。

《続く》






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