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続山月記(31) 


 日没と共に少し風が強くなってきた。
 遠慮する青を無理に背負い、亮は道なき道を歩き続けた。
 そして歩き続けるうちに、青は亮の背中でウトウトと眠ってしまったらしい。どうやら疲れ果てて眠ってしまったようだ。
 背中を通して伝わってくる青の温もりが嬉しかった。、
 無理もない、と亮は思う。
 この一日で、どれほど怖いことに遭遇したことだろう。それから逃れる為に山野を歩き続けてきたのだ。不平も不満も云わずに、おとなしくついてきてくれたのだ。自分だって、弟が一緒でなかったら、とうの昔に錯乱していただろうと思う。
 少し顔を上げると、木立の間に枯れ葉色の細い月がのぞいていた。眉を引いたような綺麗な形の月。しかし、その月も夜半前には山の彼方に没するだろう。
 その後は、無数の星の明りだけが頼りになるはずだ。
 しかし星明かりより何よりも、背中の弟の温もりが心強く感じられた。


「何かいる――、こっちを見てるよ」
 怯えた青の訴えに亮は足を止めた。
 用心しながらゆっくりと背中の弟を下ろす。
 亮は弟の視線の彼方を見やった。変わったものは何もない。
 うっそうとした黒い森が闇の彼方まで続いているだけだ。風に揺れる枯草のほか、何も動くものはない。
「大丈夫、何もいやしない」
「でも……」
 口ごもる青の様子が尋常ではない。
 ぶるぶると震えている。けっして寒さだけとは思えない。
(そういえば、前にも)
 亮は弟の様子を見て、思い出したことがあった。
 時々、妙に鋭い勘の冴えを発揮することがあったのだ。例えば、不意の来客があることなどを往々にして言い当てたりしたのだ。弟に言わせてみれば『なんとなく誰かが家に向かっているような気がする』という程度のことなのだが。
「わかった、それじゃ身を隠して少し様子を見ることにしよう。そうしたら、おまえも安心できるだろ」
 亮はあたりを見渡した。「ちょうどいい、あの大きな木の影に隠れよう」
 二人は大樹の根元に身を潜めた。
 枯れた草の茂みが人の背丈以上もあり、容易には見つかりそうにはない。
 風が吹きぬけていき、枯れ葉が木立の間を舞う。
 ゆっくりと時間が過ぎていった。
 木々を照らす微かな月明かりも徐々に傾き、闇が次第に深まっていく。危険を感じさせるようなものは無い。青が震え怯えながら、亮にしがみついている他には。
(やはり青の思い過ごしだろう。こんな夜なんだもの)
 と、亮が思いはじめた、その刹那。
「ほら、あれ――、なんだろう」
 青が小声で囁いた。
 その視線の先、小さな光が、すーっと漂うように流れたのだ。小さな青白い光だった。それほど遠い距離ではない。木々の間を縫うように漂い、時として木立に遮られ見えなくなる様子から、その光との距離は推測できた。むしろ森の奥行きを考えれば、指呼の距離だと言えるほどの近さだ。

《続く》






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