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続山月記(40) 


 老人に言われるまま、亮はこっくりと頷いた。
「おまえさんの弟の記憶に手を加えておいた。この出来事は幼い子供には、ちと辛すぎる事が多かったのでな。実はな、おまえさんの弟だけではなく、わしはこの出来事に関わった全ての人々の記憶に手を加えようと思っておる。たまたまこの地に迷い込んだ虎が暴れた……、と。あの道士の記憶は全て削り葬り去るつもりじゃ。人々の口から噂が広がり、またこのような愚行を企てる者が現れぬようにな」
「はい」
 亮は傍らで、すやすやと眠る青を見た。
 老人の言うとおりだと思ったのだ。青が悪夢にうなされるような事が回避できるのならば、それに越した事はない。
 でもどうして目の前の老人は、それを自分に明かしたのだろう――、亮は訝しく思った。他の人々と同様、こっそりと拭い去ってしまえば、それでいいはずなのだ。どうせ老人の記憶すら無くなってしまうだろうから。
「何故、それを――、そう思っているようじゃの」
 老人の顔に再び柔和な笑みが戻った。「察しのいい子供じゃ、おまえさんは。もちろんそれを望むのであれば、そうしてあげよう」
「僕は――」
 亮は口を開きかけて、しかし言葉を続けることができなかった。
 様々な思いが一度に湧き上がってきて、整理がつかなかったのだ。答えを急かそうともせず、その様子を老人は注意深く見守っていた。
「僕は鯤や小蛍がどうしてあんな事になったのか、本当のことを忘れたくはありません、だから削らないでください、お願いです」
 縋るような目で、亮は老人を見た。
「その気持ちはよくわかった。いいじゃろう、おまえさんの記憶には手を加えずにおこう。いい子じゃな、おまえさんは」
 老人の笑みが深くなった。「もし、おまえさんが手を加えられることを望むのであれば、実は青は崑崙に連れて帰るつもりであった」
「えっ! だって!」
 亮は思わず抗議の声を上げていた。なぜなら老人は先ほど、そんな事は決してしない――、そう明言していたのだ。
「その時は、おまえさんを欺く事になってしまっただろう、おまえさんの弟に関する記憶を誰からも全て消し去るつもりでおった。元々、そんな子供は里にはおらぬ――、そういう事にな……」
「……」
 亮は口をつぐんだまま、じっと老人の目を見つめた。
 人々の記憶から特定の事だけを削り落とす――、そんなことがどうしたら出来るのか、亮には全くわからない。しかし足の怪我を瞬時に治してしまうような、この老人には可能なのだ――、そんな確信めいたものを亮は感じていた。

《続く》



こちらも連載が40回目になりました。
ここまでで原稿用紙換算で195枚目、こちらもどうやら200枚を越しそうです。




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