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続山月記(42) 


「だ、誰が罪を悔いるものか!」
 ひどく不貞腐れた様子で董は叫んだ。「偉そうなことを! お前も虎精を得たいのだろうが! あれは得難い霊薬の素となる重要な鍵なのだからな!」
 董の顔は倒れた拍子に泥に汚れたままだ。
 その上、今まで白虎に押さえつけられ身動きを封じられたまま放置されていた。その仕打ちは董の歪んだ矜持をズタズタに引き裂いたに違いない。それで不貞腐れているのだろう。もっとも老人が阿諛追従の通じる相手ではないと知り、開き直っているのかもしれない――、亮は二人の遣りとりを見ながら、そんなことを思っていた。
「やれやれ、とても罪を悔い改めた者の物言いではないようだな」
 老人は呆れたように言い捨てた。「よかろう、どうやらその身命で罪を購いたいらしい。その望み叶えてやろう。白虎よ、そやつを解き放て!」
 その言葉に、亮は耳を疑った。
 そしてそれは董も同じらしかった。一瞬、董はポカンと口をあけて老人を見、それから慌てて立ち上がり、再び森の中を駆け出したのだ。
 が、その遁走は長くは続かなかった。
 老人が何やら呪文を唱え始めたように亮には聞こえた。その声に誘われるように老人に目を向ける。呪文を唱え終わった途端、老人が董に向けた掌から赤い稲妻のような光が迸ったように亮には見えたのだ。
「ぎゃあ!」
 老人の掌から放たれたの赤い光が董の身体に絡みついた。そしてその瞬間、董は人のものとは思えない怪鳥のような叫び声を上げたのだ。
 董は痩せた身体を仰け反らせ、きりきりと宙を舞った。その顔は恐怖と苦痛に歪んでいるようだ。ずいぶん離れた距離にも関わらず、亮にはそれがはっきりと見えたのだ。
 直前の森を駆けた勢いを保ったまま、董の身体は地面に激しく叩きつけられた。しかし倒れた後も猶も前方へと腕を伸ばし地を這うように足掻きながら、なおも逃れようとしていた。
 その姿は亮には瀕死の獣を思わせた。
「た、助けてくれっ!」
 董の叫び声が何度も繰り返し森に木霊した。「やめろっ、やめてくれっ!」
 しかしその声に応じるものは誰も居ない。その間も赤い光は投網のように董の身体に絡みついたままだ。正確には光は董の身体を締め上げるように少しずつ縮まっていくように見えた。光の網は脈動しながら次第に縮まっていき、それに比例するように明るさを増していく。赤い光の網に絡み捕られたまま董はもがき、叫び声を上げ続けた。
 赤い光に包まれた董の姿は眩いほどの光に包まれて、間もなく見えなくなった。
 その光の中から響く董の叫び声も獣の呻りのような意味をなさないものに変っている。光はゆっくりと脈動を繰り返しながら小さく丸く纏まっていった。その有様は、まるで赤い光でできた繭のようだった。
 老人は毅然とした厳しい面持ちで赤い光塊を凝視し続け、亮も呆然としたまま成り行きを見守っていた。

《続く》






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