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満月だけが知っている(01) 


「なんだか苦いんだなあ、ビールって」
 缶から少しだけ飲んで、翔平は顔をしかめた。それは飲むというより、おそるおそる舐めたって感じだ。「これって、あんまり美味しくないや」
 その様子を見ながら俺は笑った。翔平の様子が子供ぽくって――、自慢げに悪戯して失敗した子供みたいで可愛く思えたからだ。
「なんだ、それじゃ初めてだったん? ビール飲むの」
「うん、そう。もっと美味しいものかと思ってた。だってコマーシャルとか、すごく美味そうに飲んでるしさ、ちょっと憧れてたのになあ、なんか裏切られたみたいな気がする」
「あはは……、たしかに美味そうだなあ、どのビールの宣伝もさ」
 テレビでやってるビールのコマーシャルを何種類か思いながら、俺は一気にビールを喉に流し込んだ。「ああ、うまい」
 俺は空になった缶を脇に置き、口元を手の甲で無造作に拭う。ほろ苦いビールの味が全身に広がっていくような感覚を感じながら。もちろん、それは錯覚なのだろうけど、五臓六腑に染み渡る――って、こんな感覚に違いないと思うのだ。
「わあ、すごいなあ!」
 翔平は目を丸くした。「ほんとに美味しそうに飲むんだなあ、太一ってさ」
「だって美味いんだから。それに嫌いじゃないよ、この苦さとか」
 ひどく感心したように俺を眺めてる翔平の視線を感じただけで、なんだかくすぐったくなってくる。俺は少し照れてしまい、それを誤魔化そうとして、そのまま草の上に大きく手足を伸ばして寝転んだ。「でも内緒だからな。酒飲んでるなんて知られたら問題だしなあ、下手すりゃ停学だし」
「もちろん誰にも言わないよ」
 翔平は俺の顔を見ながら、ニヤリと悪戯っぽく笑った。「ぼく達だけの秘密だもの。だってぼくだって飲んでるし、もう立派な共犯だろ、えっと、ぼく達は運命共同体ってやつだよ」
 そう言い終えると翔平は、さっきから手にしたままの缶を口元に運ぶと一気に煽るように飲んだ。煌々と眩しいくらいに光ってる青白い満月に照らされて、白い細い喉が上下に動いているのだ見えた。その様子が妙に艶やかで、俺の目は翔平の喉元へ釘付けになってしまう。
「お、おい! 無理するなってば」
 俺は慌てて起き上がり、翔平に向かって声をかけた。「今まで飲んだことないんだろ、そんなに飲んだら酔っ払っちまうぞ」
「ふう……、大丈夫だって。でもやっぱり苦いなあ。これが美味しいかどうか、かなり微妙な気がするんだけど」
 空になった缶を手の中で弄びながら、不満顔で翔平は呟いた。
 きっと口直しのつもりなんだろう、チョコ菓子を二、三個つまんで、口に放り込んだ。たしかに翔平にはビールよりもチョコの方が似合うかもしれない、俺はそう思った。
「慣れてないからだ、きっと。こんな少し寒い夜じゃなくって、そうだなあ、真夏のクソ暑い日だったら最高に美味いんだぞ。少し身体を動かした後とかさ、だらだら汗流しながら、ギンギンに冷えたやつを一気に飲むとだな」
 真夏の炎天下、そして冷たく冷えたビール――。想像しただけで、もっと飲みたくなってくる。思わず手元の缶に手を伸ばしかけて、もう空なのを思い出し、苦笑しながら手を引っ込める。
「そっか、じゃ飲みなおしてみようかな、夏になったら」
「ああ、そのときは一緒に飲もう」
 暑い夏の光景が、一瞬で俺の頭の中に広がった。
 青い空に浮かぶ白い雲、燃えるような太陽、びっしり汗をかいた冷たいビール缶、そして俺の傍らには翔平の笑顔。
「なんだか楽しみだなあ」
 うっとりしたように翔平が呟くのが聞えた。

《続く》






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