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いつか見上げる空の色(20) 


「行ってらっしゃい」
 見送りなんていいから、おとなしく寝てろよ――、コウさんはそう言ったけど、ぼくは半ば強引にコウさんが出かけるところを見送った。そんなことしてて風邪が酷くなっても知らないぞ――、って呆れ顔でコウさんは言ってたけど、でもとても嬉しそうな顔をしていたような気がする。
 ドアが閉まり外から鍵を掛ける音がして、それから足音が遠ざかっていくのを聞いていると、なんだか不思議な気分になってくる。ヒッチハイクで乗せて貰ったトラックの助手席から見知らぬ夜の街に降り立ってから、ようやく一夜が過ぎただけだ。あの時はどうやって一夜を過ごそうか、それを考えるだけで頭がいっぱいだったし、夜が明けてからの事なんて、全く考える余裕なんて無かったと思う。
 でも、今、ぼくはコウさんの部屋にいる。
 暖かで美味しい食事も作ってもらったし、遠慮はいらないからここに居ろ――、そうコウさんは言ってくれた。もちろん甘えてばかりじゃいけない、ってことは頭では分かっている。だけど自分勝手な考えかもしれないけど、コウさんと一緒にいるだけで今まで自分が抱え込んでいた問題から解き放たれた――、違う、コウさんが解き放ってくれた――、ような気がする。今までは呼吸する事さえ誰かの目を気にしなきゃいけない、そんな緊張をずっと強いられてきた。でも今は誰かに遠慮することなく自由に息ができるのだ。
 椅子に座ってテーブルに頬杖をついたまま、そんな事をぼんやり思っていたけど、ぼくは急な眠気を感じて立ち上がった。コウさんに言われたとおり、おとなしく寝ていなきゃ……、そう思いながら布団に潜り込む。渡してくれた風邪薬のせいなのか、それとも単に疲れが残っていたのか、きっと両方だと思うのだけど、横になった途端、まぶたが重くて、たちまち眠くなってしまう。
 布団の中は、まだ暖かくて心地よかった。それに加えてコウさんの匂いが布団に残ってて、ぼくは嬉しかったのだ。腕の中に抱かれている――、目を閉じるとそんな気がしたし、今はコウさんの姿は部屋の中にはないけど、ぼくを世界中の誰よりも優しく守ってくれてる。だからこのアパートの部屋にいる限り、その腕の中にいるようなものだ――、そうぼくには思えたのだ。
「おやすみなさい、コウさん……」
 ドアの向こうに見えなくなったコウさんの後姿を思い出しながら、ぼくはそっと呟いた。

 そんなわけで、ぼくが再び目を覚ましたのは午後のかなり遅い時刻だった。
 冬の短い日は既に西に傾いているらしく、薄いカーテンの閉まったままの窓は赤く染まっていた。そして窓越しに凍えたようなスズメのさえずりが聞こえている。そのさえずりに耳を傾けながら、もしコウさんに出会ってなかったら窓の外のスズメたちみたいに冬の空の下で、ぼくも凍えていたはずだ――、なんて事を思いながら、ぼくは布団の上に起き上がった。
 薬が効いているのか、風邪はほとんど治ったような気がした。朝、起きた時に感じた熱っぽさや、起き上がれない程の気だるさも今は少しも感じなかったからだ。
 もし暇だったらテレビを見てればいいし、なんだったら本を読んでてもいい、今日は早めに帰ってくるから――、そんなコウさんの言葉を思い出して、ぼくはテレビをつけた。ぼんやりとテレビを見ながら、その気もなくチャンネルをパチパチと何度も変えてみる。だけどどの番組も似たり寄ったりで、内容も騒がしく感じられた。さっき治ったと思ったばかりの頭にガンガンと響いて再び痛くなってきた気がして、すぐにテレビの電源を消して、ぼくは立ち上がり、カーディガンを羽織った。
「本か……」
 ぼくは壁際に置かれたコウさんの机に近づき、机の上を眺めた。
 きっと几帳面な人なんだな、コウさんて――、ぼくは感心しながら、そう思った。あたらめて部屋の中を眺めても机の上と同じようにきちんと整理されていたし、机の横に置かれた本棚にしても高さの順に本は並べられていたからだ。

《続く》






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