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いつか見上げる空の色(25) 


「ここから先は信号ないからな、飛ばすぞ!」
 コウさんの背中越しに声が聞こえた。たぶんそれは怒鳴るような大声だったに違いない。被っているヘルメットが邪魔をして、そんな声じゃないと聞こえないからだ。
「うん、わかった!」
 エンジンの単調な音に負けないよう、ぼくも叫んだ。
「いいか、振り落とされないようにしっかり掴まってろよ」
 再び、いくらか冗談っぽい響きを含んだコウさんの声が聞こえた。
 だけどそれは決して誇張なんかじゃない事を、ぼくは知っている。バイクの後ろに乗せてもらうのは、あの映画館の夜を含めても二度目だった。今から思うと、あの時のコウさんは、ずいぶん手加減して運転していたんだと思う。片側三車線もあるような大きな道を流れる車の列に遅れることなく走っている、今日の運転が普通なのだ。ぼくはコウさんのお腹に手を回して、広い背中にしがみついていた。今は信号で止まっているからいいけど、走り出すと実は怖いくらいなのだ。
「はい!」
 ぼくがそう叫んだのと同時くらいに信号が変わったらしい。
 まるでぼくに警告でもするかのようにエンジンを力強くふかした後、バイクは再び滑るように走り出したのだ。
 バイクは間もなくビルや家が建て込んだ市街地を抜け、緑の多い木立や畑が広がる地域へと走りこんでいく。市街地を抜けたあたりから、すぐ横を併走するような車はかなり減って、バイクは広い道をすいすいと走り続けていた。
 快調に走り続けるバイクの後ろで、恐る恐る顔をあげてみると、冬の淡い青空が目に入ってきた。その空に白い雲がいくつも浮かんでいる。明るい日差しは柔らかで、日が当たっている背中はポカポカと温かだ。ぼくが貸してもらったヘルメットはコウさんが被っているようなフルフェイスじゃなかったから顔に直接当たる風は冷たかったけど、その冷たさがいい刺激になって気持ちいいくらいだ。
(わあ!)
 何度も心の中で歓声を上げたほど、滑らかに周囲の景色が後ろへ後ろへと遠ざかっていく。
 緑の中を走るようになってから道は細くなってきた。でも道は空いていて、対向車も同じ方向へ向かう車もほとんどない。路上を走っていくのは、ぼくとコウさんを乗せたバイクだけだった。
 今はコウさんと二人きりなんだ――、うっとりしながらぼくは思った。誰かに遠慮することなく、コウさんの背中にしがみついていられるのだ。
 今日は思いっきり楽しもうな――、今朝、出かける直前にコウさんはそう言ってくれた。ぼくの風邪をコウさんは気にしてたけど、薬を飲んで暖かくして早く寝たおかげで、もうすっかり治った気がする。飲んだ薬や早く寝たよりも、その前の夜と同じように冗談っぽかったけど額にキスをしてくれたから、そっちの方が効果あったかもしれない。
 今日は朝からすばらしい天気だった。ぼくらは近所のコンビニでお弁当を買い、晴れ渡った冬の空の下をバイクに乗ってツーリングに出発したのだ。

《続く》






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