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いつか見上げる空の色(40) 


 コウさんの乗ったバイクの音が次第に遠く小さくなっていく。
 ぼくはテーブルで頬杖をつきながら、その音に耳を傾けていた。エンジンの音が町の雑音に溶け込んで聞こえなくなってしまうまで大した時間はかからなかっただろう。だけどぼくにはその音が聞こえなくなるまでの時間がとても長く、何よりも愛おしく感じられたのだ。
「行っちゃった……か」
 ぼくが力なく呟いた言葉が、誰もいない部屋に吸い込まれるように消えていく。
 ため息をつきながら、ぼくは立ち上がり、コウさんの机まで足を運んだ。
 そして机の上にあったメモ紙を一枚貰い、鉛筆を借りる。その場から立ち去ろうとして、でも名残惜しくて机の上をもう一度、ぼんやりと眺めた。机の上には相変わらず難しそうな本が並んでいて、物珍しくて本の背表紙を読み上げた日と変らない。たった数日前の出来事なのに、それは遠い昔のように懐かしく思えてしまう。
 また涙が溢れ出そうになるのを感じながら、ぼくは逃げるように慌ててテーブルに戻り、再び腰を下ろした。
 このテーブルの上にメモが残してあれば、コウさんが見落とすなんてことは決してないはずだ。
 ぼくは鉛筆を握り、白い何も書かれていないメモ紙に向き合った。
 鉛筆を握った手が震えているのが目に入ってくる。まったく何て情けないんだろう――、そう思いながら白い小さな紙だけを眺めようと、ぼくは努めた。別に自分が情けないのは今に始まった事じゃないだろ――、思わずそんな呟きが漏れてしまう。これから書こうとしているのは、コウさんへの最初で最後のメッセージだった。
「なんて書こう……」
 躊躇いがちに、ぼくは誰もいない宙に向かって尋ねてみた。もちろんどこからも答えなんて返ってくるはずがない。
 ただ、どうしても考えがまとまらないのだ。
 頭の中でジタバタしていると、不意に中根さんの顔が思い浮かび、ぼくは苦笑した。 あの人は少し強引だったけど、でも決して間違ったことを言ってたわけじゃない。それもあって、あの人のことを恨むとか、そんな気持ちは微塵もなかった。
「こんな感じでいいかな……」
 ぼくは思いついた言葉をメモ紙に書き連ね、それを眺めた。
 緊張していたせいもあるけど、自分でも呆れてしまうほど下手で不揃いな文字が並んでいた。それを書いた本人なのに、メモ紙を眺めていると笑えてしまう。
 これじゃダメだ、ちゃんと書き直そう。紙をもう一枚貰わなきゃ――、そう思いながらぼくは立ち上がりかけ、でもすぐに思い直して、また元のように腰を下ろす。
「このままでいいや、きっとコウさんも笑ってくれる……」
 それが呆れ笑いでもいいから、ぼくはコウさんに笑って欲しかった。
 なぜならコウさんの笑顔が一番好きだったから。笑顔だけじゃない、どんなコウさんも大好きだった。大好きだし、一番大事に思える人なんだ、だからコウさんの将来を傷つけるようなことは絶対しちゃいけいなんだ……。
 そんな思いが急に湧き上がってきて、涙も一緒に溢れてきた。涙が落ちてメモ紙を汚さないよう、ぼくは慌てて手で頬をゴシゴシと拭う。
 まったく泣き虫なんだから、昔から本当に困ったやつだ――、そう自分で自分を叱りつけるけど、いっこうに涙はおさまらない。それどころか逆にますます涙が溢れてきてしまい、ぼくは呆れて泣き笑いするしかなかった。
 声に出してみよう、読み上げてみよう――、ぼくは唐突にそう思った。
 絶対に有り得ない話だけど、なんだかコウさんに届くような、そんな気がしたからだ。今はもう涙で霞んでしまい、ぼくには読めなくなっていたけど、そこにはこんな言葉が書き連ねてあったはずだ。

「コウさんへ。
 とてもお世話になりました。ぼくは家に帰ります。借りた鍵はポストに入れておきます。さようなら」

《続く》


いつもよりも長めの分量で長々とすみません、どうしても分割できなかったので…。
こちらの連載も40回目を迎えました。ここまでで原稿用紙で166枚ほどになりました(^^;)
これからも宜しくお願いします。




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