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いつか見上げる空の色(09) 


 指先でお湯を弾いてみる。
 チャプチャプ――そんな小さな音を響かせながら、お湯が揺れ波紋が拡がっていく。
 ユニットバスの小さな風呂桶で身体は窮屈だったけど、こんなゆったりした気持ちでお湯にひたるのは、久しぶりだ。
(コウさんに会えなきゃ、どうなってたろうな、今ごろ……)
 白い湯気で霞んで見えるお風呂場の入り口をぼんやりと眺めながら、ぼくはつぶやいた。
 あの映画館での出来事を思い出すと、今でもゾッとする。暖かいお湯の中に身体をひたしていても背筋に冷たいものを感じてしまうのだ。
 怖くて恐ろしくて、本当に泣き出しそうだった。
 しかし、泣き叫んでたにしても、きっと無事には開放されなかったと思う。たぶん泣きながら、やめてって懇願したところで、それがあいつの気持ちを昂ぶらせて、もっと酷い結果を招いた――、そんな気がするのだ。
 ぼくを弄って悦んでた連中と同じように、だ。ぼくが涙を流せば――、我慢しながら苦痛に身をよじらせただけで、あいつらは腹を抱えて笑ってたのだ。
(でも、あの人も――、コウさんもあんなこと……)
 さっきぼくに見せてくれた、コウさんの柔和な照れたような笑顔を思うと、なぜか胸の動悸が早くなってくる。
(あの人は、あんなことしない、だって助けてくれたんだし)
(だよな……、でも)
 不安と期待――。それがごちゃ混ぜになった気持ち。
 ぼくの中に湧き上がっていたのは、自分でもよくわからない感情だった。
 ぼくはいったい、あの人に何を望んでいるのだろうか? 今夜泊まるところができたのは嬉しいけど、なんだか怖い。あの人は何もしないと思うけど、あの人の胸に縋って泣いていた時のホッとしたような安らかな暖かな気持ち。あのまま肩を抱かれて縋っていたかった――、そんな気持ちが今もなお残っている。
 明確な気持ちも考えも形にならないまま、ぼくの上を時間だけが流れていく。
(そうだ。そろそろ出なくっちゃ、のぼせちゃうぞ)
 ぼくは勢いよく、湯舟の中で立ち上がった。
 お湯の溢れる音が木霊みたいに響いて、白い湯気が一気に濃くなった。

《続く》






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