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失われし約束の地(07) 


 立ち枯れしているような潅木に、砂漠の彼方から現れた二人は馬をつないだ。おそらく駆け続けて疲れていたに違いない、馬たちは与えられた秣を大人しく食んでいるようだった。スーロンが携行してきたらしい焚き木に手馴れた様子で火を点し、遅い夕餉の支度に取り掛かる。
 やがて荒涼とした砂漠の只中に、ささやかな焚き火が揺れ、三人は火を囲んだ。
 火というのは不思議なものだとクラミィカは思う。スーツの温度調節機構が効いて、それほど寒さを感じるわけでもない。
 だが、揺れる火の光は実に魅力的に思えた。その発する熱量以上に暖かさを感じ、また空気を和らげてくれるような気がするのだ。炎の向こう側にいるのは初対面の人間なのに、不思議な親しみを感じてしまうのだ。
 クラミィカはあたらめて二人の男の姿を見た。
 揺れる火の明かりに照らし出された二人の顔は薄汚れていたものの、精悍な雰囲気を漂わせている。若いスーロンは腰に煌びやかな飾りのある短刀のようなものを佩いていた。先ほど手にしようとした武器なのだろう。一方、スーロンから太子と呼ばれた男は、どうやら武器らしいものは携行していないようだ。
「口に合うかどうか判らぬが、温まるぞ」
 ラグードのダンと名乗った男は、わずかに湯気をあげる小さな杯をクラミィカに差し出した。無骨なゴツゴツした手にクラミィカは目を奪われた。「飲むといい」
「ありがとう」
 礼を言い、クラミィカは手にした杯を躊躇うことなく口に運んだ。杯に満たされていたのは、嗅いだことのないような刺激のある香りのする液体だった。
 口に含むと、かすかに甘く、ほろ苦い。
(不注意ですよ、クラミィカ)
 ルーボの警告が脳裏に閃いた。たしかに便利な存在なのだが、口煩いのが欠点だ。
(襲い掛かろうと思えば彼らにはその機会はあったさ、それに騙まし討ちというのは、彼らの流儀ではないらしい、その彼らが毒を用いるとは思えんな)


 無言の簡単な食事が終わると、会話の糸口が掴めずに、奇妙な気まずい沈黙が流れた。砂漠を渡る冷たい風が火を揺らし、クラミィカの髪を撫でて幾筋かの髪が風に舞っている。
「この砂漠に星が落ちた」
 沈黙を破ったのはダンだった。「昨夜のことだ、我らの宿営地は大騒ぎだった。砂漠に何があったのか、それを調べに来たのだ、部下の中には無駄だと制止するものもいたが……」
「派手な流れ星だったでしょうね」
 黒く焼け焦げたポットの外壁を思い出しながら、まるで他人事のような口調でクラミィカは口を開いた。「目立つのは本意ではなかったのだけど」
「遠くから来たと云ったな、クラミィカ」
 ダンは、ぼんやりと焚き火の明かりに浮かび上がるポットに目を向けながら話を続けた。「あれが船なのか、あれに乗ってか」
「ああ、そうだ」
 クラミィカは思わず星空を仰ぎ見た。
 彼らは理解するだろうか――、そう思い、何を何から話せばいいのかクラミィカは戸惑った。だが目前のダンならば……、と思い直して彼を真正面から見つめた。日に焼けた精悍な顔だ。砂漠に半ば埋もれたポットを船と断じ、この邂逅にも動じない様子は好ましかった。
 少し間を置いて言葉を選びながら、クラミィカは再び話し始めた。「はるか空の高みで事故に遭った。あれは船の一部だよ、緊急時の脱出用の。だからもう飛び上がる事はない、永久に――、な」
「そうか、それは残念な事だ。星々の彼方に人の棲む数多くの世界があるというのが、我々に伝わる言い伝えがある」
 それだけ言うと、ダンは薪を焚き火に放り込んだ。焚き火から火の粉が舞い上がり、三人の影が大きく揺れ動く。
「それは正しい。あなた方の遠い祖先は、星々の彼方からこの世界へ至ったのだ。
 わたしは、その世界の一つから来た。天空に瞬く無数の星々のなかの一つ、おそらく肉眼では確認できぬ微光の恒星が照らし出す世界から、わたしは来た」
「そうか、この世界を知るためにと云っていたが、何を知りたい?」
「人々の暮らしを、天空から眺めるだけでは知り得ないことを――、だ」
「ならば見せよう。そしていつか復命し、この世界の有り様を伝えてくれ」

《続く》






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