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失われし約束の地(09) 


 砂漠の移動が始まった。
 北の果てに存在するという見捨てられた都市を目指す旅だ。
 どこまで進んでも単調な景色が続いていた。目に入るのは立ち枯れした潅木の残骸と、なだらかな砂丘の高まりだけだ。乾ききった大地がどこまでも続いていた。およそ個性的な特徴を持つ地形というものは全く見当たらない。
「おい、スーロン!」
 不意に鋭い叱責が飛んだ。「寝るな、気をしっかり持て! 気を抜くと馬から落とされるぞ」
「あ――、はい、太子さまっ!」
 単調な景色は注意力を低下させ、時として眠気を誘うのだ。注意深く観察すれば、日差しの向きだけが時間とともに移り変わっていくのがわかっただろう。しかしそれは小さすぎる変化だった。長い時間を経て、ようやくそれと判る変化だ。
 やがて日が大きく傾き、旅人たちの影が砂漠に長く伸びていった。
「ああ、もう日没だ……」
 バギーを停め、車上から日没の光景を眺めながらクラミィカは同じように日没の光景を眺めていたダンに話しかけた。
 はるか彼方の砂丘の陰に、ゆらゆらと揺れながら巨大な光球が没しようとしている。錯覚だと判っていても、その巨大さに圧倒されてしまう。夕焼けに照らされて、砂漠は朱に染まったようだ、何もかもが。
「まだ明るさが残っている間に、営場所を探さねばな」
「そうだな、いいものがある。少し待て」
 クラミィカは携行品の中から双眼鏡を取り出すと、バギーの車上に立ち上がり、周囲を見渡した。視界を遮るものがほとんどない為、少しでも高い分、遠くまで見渡せるのだ。
「何かあるぞ……。あれは……、岩か、それとも何か建物の残骸だ」
 クラミィカは呟いた。
 砂丘の陰に、砂丘の丸っこい輪郭とは明らかに違うシルエットが突き出しているのが見えたのだ。距離はそれほど遠くはない。他の二人にもわかる様に、指で方向を指し示す。
「ああ、あれか。風よけにはちょうどいい」
 それは半ば砂丘に埋もれていたのは、おそろしく古るそうな建物の残骸だった。
 もともとは石造の頑丈な作りだったらしい。しかし今では壁の一部が残るのみだ。崩れ落ちた建材に混じって、生活に使われたと思われるような陶器などの破片も幾つか見つけることができた。
「どうした、スーロン」
「太子さま、これを」
 スーロンず指差した先の壁には、削り刻んだような痕跡が残されていた。焚き火の明かりに陰影が強調されている。
「何か文字でしょうか」
「たぶんな」
 ダンは立ち上がり、壁に歩み寄った。
 そして壁に刻まれた文字らしい痕跡を指先でなぞっていく。「だが、もう読めない。荒廃していく土地に対して呪詛なのか、あるいは戻ってくるという誓いの言葉だったのか……、どちらかだろう」
「いずれにしても、ここの住人達は、この土地を放棄して立ち去った」
「そうだ。この世界は人を拒んだ。豊かだった大地は掌を返すように荒涼とした砂漠へと変わり、人々は残された地の富を争うようになったのだ。ちょうどいい時に、クラミィカ、あなたは来たのかもしれぬ」
「どういう意味だ?」
 クラミィカは訝しげにダンの顔を眺めた。
「我々にどれだけの時間が残されているかは判らん。だがこの廃屋の住人のように痕跡だけを残して、この世界から人の姿が消え去るときが必ず来る、残念ながらな……。この静かな滅びに抗うには、我らだけでは、あまりにも力不足なのだよ」

《続く》






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