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失われし約束の地(01) 


 石を小さく積んだだけの粗末な墓が並んでいる。
 ここは村の墓地だ、墓地は高台にあった。細かな砂塵を含んだ強い風が容赦なく吹きつける、そんな荒れ果てた丘の上だった。何もかも磨耗し尽くして無くなってしまうがいい――、そう言わんばかりの強風が墓の間を吹き抜けていき、砂を含んだ風は容赦なく硬い石を磨り減らしていく。
 実際、一つの歴史が閉じようとしていた。
 人々の営みの痕跡が跡形もなく消え去るのも、そう遠い未来とも思えない。その時、もしこの地を訪れる者があったとしても、なだらかに続く不毛の平原を認めるだけだろう。

「これで一人きり……。もう誰もいないんだ……」
 イアンは肩を落とし、呟いた。
 その声は風に乗り、そのまま消えていく。
 その声に応える者の姿はどこにもない。
 ただ荒野を風が吹いているだけだった。墓のある高台から見下ろすと、耕し手を失って荒廃した耕地のあちらこちらに、もはや廃屋同様となった家屋が何軒か見えている。人の手が入らなくなった建造物の崩壊は早い。それらの多くの壁は傾き破れ、屋根は崩れ落ち、既に用をなさない廃墟だ。
 廃墟と化した村の更に先、はるか遠方に黒々と広がるのは海だった。
 吹き寄せられた波浪が岸に砕け、白い波頭が幾筋が見えている。荒れ果てた耕地と同様、海の実りも絶えて久しい。地平の彼方まで続く緑の耕地、海からの豊かな実り、それは昔話に過ぎず、何度も聞かされた老人の繰言の中だけの存在だった、少なくとも年若いイアンにとっては、だ。
 涸れかけた井戸の水だけを頼りに祖父と二人で守ってきた村最後の耕地だった。しかし今もイアンは思うのだ。その祖父は何を守ろうとしていたのだろう――、と。ようやく生き続けるだけの糧しか生み出さぬ、乾き疲弊し尽くした大地を守ることに何の意味を見出していたと言うのだろう。
「どうしよう……」
 もちろん誰も答える者の姿はいない。が、判っているのに声に出さずにはいられないのだ。
 不思議と悲しみは感じてはいなかった。そして絶望も。
 ただ開放感だけは感じていた。それは高揚感の無い、妙に干からびた感覚だった。
 イアンは村に背を向け、反対側に視線を移した。
 地平の彼方まで、荒涼とした荒地が広がっている。
 かつては広々とした耕地や牧草地だったと聞く――、しかし今となっては荒地というのも控えめな表現だった。それは既に砂漠と化していたからだ。そこにあるのは膨大な量の乾いた砂のみだった。それ以外は何も無い空間だ。
 墓地のある高台が流砂を遮り、障壁となって辛うじて村を守ってきた。
 だが絶えず風に運ばれ、飛散する砂塵を降り積もるまま放置すれば、数旬を経ずに村を覆い尽くすことはイアンには容易に想像できたのだ。
「負けたんだ、人間は……」
 それが口に出すも恐ろしく重い現実だった。しかし口にしなければならないように、イアンには思われた。ただ一人残されたものとして、敗北を宣言しなければならない。頑固だった祖父は、おそらくそれを認めたくなかったのだ。
「出て行こう、こんな場所からは……、そうだ、行かなくては……」
 イアンは顔を砂漠の彼方に向け、そっと呟いた。

《続く》






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