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恋の呪文に御用心(16) 


「ほら、あいつだよ」
 ほんの小さく開いた窓の隙間から教室の中を窺いながら、木戸は室内の一角を指差した。「あそこに何人か集まってるだろ、あの真ん中にいる怖そうな顔をした――、あれだよ、あいつが村木ってやつ」
 木戸が指差した先には、数人の取り巻き連中に囲まれた村木の姿があった。その一団の周りには、まるで目に見えない壁でもあるように他のクラスメートとは距離が保たれている。
 彼らとは係わり合いにならぬよう遠巻きにして接するのが常だった。ヘタに目を合わせたりして言いがかりをつけられては、かなわないからだ。
 その問題の村木は、椅子の上にふんぞり返ったまま、ちょうど携帯を取り出したところだった。傍若無人な横柄な態度で携帯に向かって遠く離れた廊下にいる木戸の場所まで聞こえるような大声で話し出す。その様子には木戸も思わず眉を顰めたほどだ。
「ふむふむ」
 茶狐丸は納得したように小さく頷いた。「なるほどのう、いかにも凶悪そうな面構えをしておる」
「だろ、もう怖くってさ」
 おどおどとした様子で木戸は茶狐丸の耳元で囁き、そして小さく身体を震わせながら不安そうに辺りを窺った。もし万が一、やつらの手下に悪口を聞かれたら――、それを考えたら怖くて身震いしてしまうのだ。「ぼくだけじゃないよ、みんなも怖がってるし……、あの連中って掃除はサボるし、大きな声を出して怖いし、もう最悪だしさ」
「で、あの者が胡桃沢の意向のままに動けばそれでよし――、という訳なのじゃな」
「うん、まあ、そうだけど……」
 木戸は、肩の上に乗っている茶狐丸と、教室の後で仰け反るような姿勢で携帯電話に向かって怒鳴っている村木の様子を見比べた。「どうしよ、やっぱりだんだん不安になってきた……」
「何を言っておる」
 茶狐丸は少し頬を膨らませて口元を尖らせた。「木戸はそこで見ておれ。かの者だけを一人だというのは難しいかも知れぬが、あの者共まとめて対処してくれるわ。儂にとっては何の造作もないことよ」
 それだけ言うと、茶狐丸は木戸の肩から飛び降りた。
 ふんわりと長い袖が浮いたように見えたのに布の擦れ合う音すらしない。体操だったら百点満点の着地といったところだ。そのまま木戸を見上げて茶狐丸は悪戯っぽくニヤリと笑った。口元から白い尖った歯が見え、木戸にはそれが光ったように見えた。
「さて儂は仕事に取り掛かるぞ」
「うん、あれ?」
 木戸は目を疑った。
 不思議そうな顔をして目をこすりながら茶狐丸の手元を見つめた。「変だな、それどこから取り出したの?」
「ああ、これか。これは儂が愛用しておる幣束じゃ」
「だって、さっきまでそんなの持ってなかっただろ」
 木戸の視線の先は、茶狐丸の手元に向けられたままだ。
 その小さな手元には白い、おそらく木でできた棒が握られていた。
 そして棒の先には、ひらひらとジグザグに切った――木戸にはそうとしか表現できなかった――、紙が括り付けられていて、外から吹き込むそよ風に僅かに揺れている。
「先ほども言うたばかりじゃが、木戸は儂を誰だと思っておるのだ。何度も言わすでない、儂を信じよ」
 茶狐丸は腰に手を当て、憮然とした表情で木戸を見つめた。
「えーっと、そだねえ」
 木戸は少し頭を傾げて、それからおずおずと続けた。「茶狐丸は友だちでしょ、えっと、それから……」
「確かに我らは友じゃ、しかし儂は由緒正しき白狐の眷属、いわば神の一族に属しておるのだぞ。どうも木戸は判っておらぬようじゃ」
「……」
 木戸はなんと言っていいか分からずに、茶狐丸の顔を見つめるだけだった。
「その儂が大丈夫だと言うのじゃ、いいから黙って見ておれ!」
「あ、はい……」
 茶狐丸の言葉に気おされて、木戸は渋々頷いた。
 そんな木戸の多少萎れた様子を満足そうに見届けて、茶狐丸は歩き出した。
 ちょうど開いたドアから教室の中に入り、まっすぐに村木たちの一団に向かっていく。
 そして彼らの真正面の空いた机の上に、ひらりと飛び乗り、手にしていた幣束を振るい始めた。なにやら呪文めいた不思議な言い回しの言葉が、廊下で様子を窺っていた木戸の耳まで聞こえてくる。が、その内容までは聞き取れない。
 それは珍妙な光景だった。
 何しろ木戸以外には誰も茶狐丸の姿は見えないのだ。
 どうやら一心不乱に幣束を振るっているらしい茶狐丸の前には、だらけきった様子の村木の一団が、騒がしく傍若無人に振舞っている。その一団を遠巻きに見ぬように装っているクラスメートたちにも当然、茶狐丸の姿は目に入っていない。
 完全に無視――、姿も見えていないし、声も聞こえていないのだから当然といえば当然なのだが、そんな舞台の中央に立つ茶狐丸の姿は、どこか非現実の有り得ない不思議な景色のように木戸の目には映っていた。
 やがて、むにゃむゃと聞こえていた茶狐丸の声が途絶えた。
 茶狐丸は妙に畏まった様子で一礼すると振り返り、木戸に向かってニカッと笑いながら、小さく手を振う。
 どうやら終わったらしいな――、そう思いながら木戸はホッと息をつき、茶狐丸の動作につられて指先だけで小さく手を振る。茶狐丸はトコトコと木戸の足元まで歩み寄って来、木戸の顔を見上げて口を開いた。
「細工は終わった、これで良し。あとは結果を待つだけじゃ」

《続く》



おはようございます、久しぶりに早朝更新ができました。
外はどんよりした曇り空で、どうやら梅雨空が戻ってきたようです。



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