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南十字に続く道(16) 


 秋の日は釣瓶落とし――、それは秋になると日暮れが始まると、すぐに暗くなってしまうことの喩えだけど、ぼくらにとっては毎日が釣瓶落としみたいに、あっという間に過ぎていく。あわただしく、それていて和気あいあいと準備を進めていた日々は過ぎ、明日からは、いよいよ文化祭なのだ。
 展示物の作成もほとんど終わり――あとは南十字のシーンを残すだけだ――、暗幕を普段のカーテンと張り替えたり、机を動かしたりと、ぼくらは最後の汗を流していた。それも間もなく終わりだ。
「それじゃ、望遠鏡、置いておくからな」
「あ、ありがとう。忙しいときにごめんな」
 ぼくは天文部の連中に礼を言った。
 借りる約束になっていた、望遠鏡を搬入して組み立ててもらったのだ。
「いつも世話になってるからさ、これからもよろしくな」
「ああ、そうだな。なるべく期待に沿うようにするよ。委員長の引き継ぎにも言っとくから」
 ぼくらは顔を見合わせて時代劇の悪役同士みたいに、ニヤリと笑い合う。
「この望遠鏡、期間中借りるけど、遊びに来いよ」
「ああ、もちろん」
 天体望遠鏡を置いたのは、最初の『教室』のシーンだ。
 もちろん作中のこの場面には天体望遠鏡なんて登場しないし、宮沢賢治の時代と較べたら、恐ろしく現代的な望遠鏡だ。なにしろ電気仕掛けで自動的に目的の星まで視野に入れてくれる。でも作中のとおり銀河の説明――最新の本から調べたものだから賢治の時代の知識からはずっと進歩してるけど――の前に据えると、それは自画自賛かもしれないけど、とても様になっていた。
「後は何かすることがありますか?」
 準備作業を終えたメンバーが、ぼくの前に並んだ。
「うん、ありがとう、あとはもう大丈夫だと思う。展示の当番よろしくな、ぼくはズッと期間中は詰めてるけど」
「はい、それじゃお先に失礼します」
 ぼくは帰っていくメンバーの後姿を見送った。
 図書室の中は暗幕を張ってしまったから、外の様子は見えない。でも廊下の窓越しに見る外の様子は、もう暗かった。慌てて時計を見ると七時を回っていた。暗くなって当たり前の時刻だ。
「堀田、大丈夫かい?」
 ぼくは昌巳が作業している机に向かって歩き出しながら、声をかけた。今、図書室に残っているのは、ぼくと昌巳の二人だけだった。昌巳が担当していた南十字のシーンだけが残ってしまったけど、それが終われば準備作業は終了だ。
「うん、大丈夫です、もう少し待ってください、委員長」
 ぼくは昌巳の肩越しに展示物を覗き込んだ。
 下書きの線をマジックでなぞっている最中で、なるほど残りは少しだ。なぞり終えたら、あとは下書きを消しゴムで消すだけだから。
「よく頑張ってくれたな、ありがとう」
 最後まで作業しているのは、なにも昌巳の手が遅かったわけじゃない。
 均等に分担するはずだっのに三人では均等にならなかったのだ。どうしよう――、そう相談しているときに志願してくれたのが昌巳だった。
「うん、いいんです。すごく楽しかったし」
 そう言いながら、振り返るとぼくの顔を見て微笑んだ。なんだか頼もしさが出てきたような気がする。少し前まで、どこかオドオドした雰囲気があったけど、今は微塵も感じられない。
「あとは消しゴムかけだけです」
「じゃ手伝うよ、二人だと早いからな」
 消しゴムで下書きを消せば、あとはパネルに貼るだけだ。皺にならないように慎重にパネルに貼っていく。完成したパネルを、それまで空いていた決められた場所にそっと置く。
 これで準備は全て終った。
「灯りを消してみようか、予行演習だ」
「はい」
「それじゃ、堀田は照明だ、合図するから」
「わかりました」
 ぼくはかき集めたゼットライトと今井から教えてもらったスイッチを順番に入れていく。
「堀田、明かりを消してみて」
 明かりが消えた瞬間、ぼくは思わず息をのんだ。それは昌巳も同じだったに違いない。
 無数とは言えないけど、それでも多くの星が煌いて――、銀河鉄道の世界が、ぼくらの前に広がっていたのだ。

《続く》




今どきの天体望遠鏡の図で、下の写真は自分の持ってる機材です。
最初に鏡筒が今どこを向いているか、指定された星を幾つか(最低1個、できたら3個)を視野の中心に導入してやる手間がありますが、それさえ済まされば、グイ~ンと目的の対象までボタン1つで動いてくれます。

ビクセン102M

蛇足な話で失礼しました m(._.*)mペコッ


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