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南十字に続く道(7) 


「おい、御厨」
 月曜日、その日の最後の授業が終わり、ざわざわと皆が立ち上がった時だ。後ろから呼び止められて、ぼくは振り返った。
「ん? なんだい?」
 後ろに立っていたのは、同じクラスの早川由紀生だ。ぼくは人付き合いが、それほどいい方じゃない。どちらかと言えば、人見知りしてしまうからだ。だから、お高くとまってる――、そんな陰口を言われたこともあったけど、それは傲慢なわけではなくて、ほんとうは臆病なせいだ。
「ノート貸してくれよ」
「いいけど、何が欲しい?」
 ぼくは聞き返した。
「全部」
 あっけらかんと早川は答えた。「来週からテストだからな、早めに借りておこうと思ってさ、おまえのノートって競争率が高いからなあ。先手必勝だ」
「あのなあ」
 ぼくは苦笑しながら、手にもっていたカバンを再び机の上に置いた。「それじゃ、今日、授業のあったやつは貸してやるよ。次の授業までに返してくれればいいからな」
 早川とはクラスの連中の中でも、よく話すほうだ。たぶん友達って言える仲だと思う。こいつは人懐っこくて、少し無遠慮で強引なところがあるから、ぼくの何事も遠慮してしまう性格とは、ちょうどいいのかもしれない。
「とりあえず、これだけだ」
 ぼくはカバンから出したノートの束を無造作に手渡した。
「ありがと、残りも頼むな」
「ああ、わかってるって」
 ぼくは安請け合いした。「明日、持ってきてやるよ」
「すまないな」
「いいさ」
 どうせ家に帰っても、開いて見ることもないからだ。逆に荷物が軽くなった――、そう思えば少しラッキーな感じだ。
 もちろん家に帰ったら少しは勉強したりするけど、たいていは予習するだけだ。あらかじめ分からない、すくなくとも疑問に思うところだけ把握しておけば、授業でそこだけ注意していればいい。それがぼくの秘訣だったりする。
「これから須藤たちと近江屋に行くけど、一緒にいかないか、このお礼に奢ってやるぞ」
 近江屋というのは、学校の近くにあるお好み焼き屋兼、駄菓子屋だ。
 実は校則で飲食店への出入りは原則禁止なのだけど、この店だけは、自称看板娘のオバチャンが大昔の卒業生で大目に見てもらっているらしい。とにかく愛想がよくて、面倒見のいいオバチャンで、とても人気があったりする。いまさら禁止したりしたら、まじに暴動でも起きそうだ。まあ、よっぽどコンニの前でたむろしているよりマシだと思うし。
「残念だなあ」
 ぼくは笑いながら大げさに言った。「今日は図書委員の会合の日なんだ、そっちに行かないといけないから」
「まだそんなのやってたんだ。いいなあ、全国模試の上位の常連は気楽でさ」
「あと少し、今度の文化祭で引退だけどね。体育系のやつはともかく、文科系はそんなもんだよ。えっと、早川は野球部だったっけ」
「そうだ、軟式だけどな。今年は一回戦で負けたから、その分、引退も早かった。今は気楽な隠居だよ」
「なるほどね」
 ぼくは頷いた。
「次は絶対に来いよ。おれは義理堅いんだ」
 日焼けした顔が笑った。
 普段は鬼瓦みたいな、いかつい顔をしているけど笑うと妙に愛嬌がある。きっと後輩にも人気があるんだろうと思う。
 そういえば、別のやつと近江屋へ行ったとき、何人かの後輩と一緒に来ている早川の姿を見たことがあった。とても賑やかで楽しそうな一団だったから、印象に残っていたのだ。もちろん、ぼくにだって後輩がいる。もちろん委員会の活動は部活とは違うから、結びつきはもっと緩やかなんだけど。そういえば、どう思われているんだろう――、それを思うと少し心配になってくる。実は、もうすぐその結果が分かるのだ。
「うん、楽しみにしてるよ」
「おう、またな」
 大柄な早川とは教室の入り口で別れて、ぼくは図書室へと早足で向かった。まだ会合の始まりまで時間があったけど、配布する資料のコピーとかしなきゃいけなかったからだ。


《続く》




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