FC2ブログ
05« 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.»07

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告  /  tb: --  /  cm: --  /  △top

少年剣士の憂鬱(24) 


「そういえば、三国志、面白かったな、それで続きを借りようと思ってさ」
 僕は話を切り出した。
 そう、それが今日の本当の目的だったのだ。それがとんでもない展開になってしまったけど。
「面白いでしょ? 読みたいだけ持っていくといいよ」
「うん、とっても面白かった」
 僕はベットの端から立ち上がり、本棚に向かって歩き出す。「もう昨日から、続きが読みたくって、早く明日にならないかな、って思ってたんだ。今日も早く学校が終わらないかなあ、って……、チャイムが鳴るのを待ち焦がれてた」
 読み終わって持ってきた本を棚に戻し、新しく次の四冊を手にとった。
「あまり借りて汚しちゃったりしたら悪いし、とりあえず、これだけ借りることにするよ。読み終わったら次を借りにくる」
「それで、どんなことが良かった?」
 興味津々という感じで、佐々木が尋ねた。「あー、訊きたいなあ、そういうこと。だってさ、まわりに同じ趣味の人がいないから」
「そうだねえ――」
 僕はあの時代に生まれてたら、きっと何も考えずに黄巾賊に入ってしまっただろう、そう思ったことを佐々木に話した。
「でも、岩城くんには似合わないと思うけどなあ。悪モノなんて」
「そうかな」
「うん、ピンチのときに颯爽と登場する正義の味方だもん」
「あははは……、またそれを言う」
 僕は照れて、曖昧に笑った。そう言われると、とても気恥ずかしい気分になってしまう。今日も確かに颯爽と登場したかもしれない。だけど、なんの活躍もなかったからだ。颯爽と活躍どころか、危うく足蹴にされるところだったのだ。
「それと良かったのは、そうだな。桃園の誓の場面だな。すごく格好いいって思った。何度も読んだから、もう暗記しちゃったよ、あの誓い」
「ああ、そこは名場面だからねえ」
 うっとりしながら佐々木。「義兄弟の誓いだよね。ぼくも何度も読んだから暗誦できるよ。なんだか憧れるなあ。そうだ。僕たちも誓おうよ、もちろん岩城くんが、いやじゃなかったらだけど」
「もちろんイヤじゃないよ」
 僕は叫んでた。「それじゃ、僕らは義兄弟だ」
「そうとも、それじゃ誓おう」
「うん」
 僕たち二人は立ち上がり、漫画の登場人物のように肩を抱きあった。
「それじゃ、僕が先に言うよ、岩城くんも続いてね」
「わかった」
「我ら天に誓う」
 部屋の中に佐々木のよく通る声が響いた。
「我ら天に誓う」
 それに僕も続く。
「我ら生まれた日は違えども、死す時は同じ日、同じ時を願わん」
 最後は二人の声が一つになってた。
 たったこれだけの言葉に過ぎないのに、僕の胸は感動でいっぱいになった。
 それは佐々木も同じだったみたいだ。目が輝き、頬が紅潮していたから。きっと僕も、そんな顔をしてたに違いない。
 僕らは誓いを、さらにもう一度繰り返した。
「ねえ、岩城くんの誕生日って、いつ?」
「六月十四日だよ」
「そっか、ぼくは十二月の五日だから、岩城くんが兄さんだな」
「たった半年くらいだけどさ」
 兄さんなんて言われると、少し照れ臭くさい。思わず照れ隠しの苦笑いがこみ上げてきてしまう。「それゃ佐々木よりも、ちょっとだけ背が高いから、それっぽいかもしれないけどさ、兄さんらしいのは、それだけだなぁ」
「そんなことないってば。いつもピンチには助けてくれる頼もしい兄さんだよ、岩城くんは。そうかあ、兄さんか――」
 佐々木は夢見るような口調だった。それから少し上目遣いで僕を見た。「一人っ子だったから、ずっと兄さんとか欲しかったんだ」
「あ、そうか。同じ境遇なんだなあ」
 僕も同じく一人っ子だったから、佐々木の気持ちはよくわかる。
 町内の悪ガキ四人で、そのまま兄弟みたいなものだったから、遊び仲間には不足はしなかったけど。でも、夕方に一人で家に帰るときはやはり寂しかったし、兄弟のいるやつを見ると羨ましかったのも確かだ。
(でも、もう一人じゃないんだ)
 そう思いながら、僕はできたばかりの弟を見た。
 目に入れても痛くないような、かわいい弟がそこにいる。
 ふわふわした髪、きらきら輝く瞳、白い肌に薄紅色のきれいな頬、形のいい思わず触れたくなるような柔らかそうな唇、華奢な細い肩――、だけど誰よりも強いって僕は知っている。誰よりもしなやかで、繊細で、礼儀正しくて、超甘党なのは玉に瑕だけど、それにしたって、そんな欠点までかわいいって思える。
 どんなことをしたって、こいつを守ってやるんだ――、僕は口には出さなかったけど、もう一度、心の中で強く誓った。
「なんだか――、もっと誓いたいなあ」
 僕はいい気分だった。
 気分が高揚するというのは、きっとこんな時のことを言うに違いない。


《続く》




ブログのトップページはこちらから。

記事がお気に入りましたら、ポチッとお願いします。
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。