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厄介事は突然やってくる(11) 


 物置の中で少し埃のかぶった自転車を道路まで引き出して漕ぎ始めると、まだ強い午後の日差しと暑さで、たちまち汗が噴き出してくる。でも自転車で走ってるから風に汗が乾いてしまうので、べたついた感じはしないから思ったより爽快だ。
 途中の幾つかある信号も運良く青が続いていて、心地よい車上の風を感じながら、ぼくは勢いよくペダルを漕ぎ続けた。
「えっと……、こっちだな」
 ミヤモトくんの家に行くのは初めてだ。
 でも教えてもらった場所は途中まではよく知っている場所だったから、それほど心配していなかったし、家の前で待ってやるよ――、そう言ってくれたから、通り過ぎてしまうような事もないと思う。
「ここを曲がればいいはずだ」
 そう呟きながら、最後の路地を曲がった時だ。
「おーい、待てよ!」
 どこか聞き覚えのある声に、ぼくはペダルを漕ぐ足を止めた。
 ほとんど無風だから、たちまち夏のむっとした暑さが戻ってくる。その声には聞き覚えはあったけど、とっさに思い出せずに、ぼくは振り返った。
 そこにいたのは耕介だ。
 やつも自転車で、軽く手を振りながら近づいてくる。なんだか嫌な予感がして、そのまま何も言わずに前を向き、ぼくは再び自転車を漕ぎ始めた。
「おい、ちょっと待てったら」
 後ろから自転車を漕ぐ音が近づいてきて、たちまち追いつかれてしまった。横に並んで、併走するような感じで、耕介が大声で話しかけてくる。「これから、どこへ行くんだ?」
「勝手だろ、そんなの」
 ぼくは素っ気なく答えた。
 それで興味をなくして耕介が追い抜いて行ってしまえば、それでいい――、そう思ったからだ。
「まあね、そりゃそうだよ。でも会長としては気になるわけで。ちなみにこちらは親に頼まれて買い物とかだけど」
「……」
 ぼくは何も言わず、かわりに耕介をじろりと睨んだ。
 まだこいつは会長だなんて、懲りもせずに大昔の話を引きずっているのだ。会長というのは耕介が作った、例の『仁志くんを女装させる会』のことを言っているに違いない。まったく、いい加減にしてくれよ――、そう叫びたい気持ちを抑えながら、大げさにため息をつく。
「それじゃ、お先に……」
 厚かましくてKYな耕介にも、ようやく険悪な空気が読めたのだろう。いくらか肩を落としながら、耕介は、ぼくの自転車を追い抜こうとした。ぼくは、やれやれって思いながら、そのまま見送るつもりだった。
 と、その時だ。
「待ってた、ここだよ、ここ!」
 絶対、聞き間違えないようなミヤモトくんの、どこか頓狂な声が響いたのだ。
 ぼくは、そしておそらく耕介も、その声のした先を見た。緑の生垣が続く静かな住宅地の一角で、ミヤモトくんが、嬉しそうな顔をして、ぼくらに向かって手を振っている。
「ん? あそこにいるのは三組の宮本だな」
 自転車のスピードを落とし、急に生気を取り戻した様子で、ぼくに顔を寄せてきて耕介は小声で囁いた。「あ、そっか。前のこともあるし、今日はひょっとしてデートとかなのか、すみに置けないやつだなあ」
「ち、違うよ」
 ぼくは即座に否定した。
 そう言い切った時には、ぼくら二人の自転車はミヤモトくんの家の前にたどり着いてしまい、ミヤモトくんは、不思議そうな顔をして、ぼくら二人の姿を眺めた。ぼくは一瞬、どう対応していいかわからずに、恐る恐るミヤモトくんの様子を窺った。
「あれ? たしか一組の人だよね」
 奇妙な沈黙の中、一番最初に口を開いたのは、ミヤモトくんだ。
「そうです、えっと」
 耕介はミヤモトくんに向かってペコリと小さく頭を下げた。「この前は、とんだご迷惑を……」
「あー、ここに来る途中で偶然、近くで一緒になってね」
 ぼくは『偶然』って言葉に力を込めて言いながら、無理やり二人の会話に割り込んだ。そして耕介に向かって、バイバイって感じで小さく手を振りながら、ぼくは早口でまくしたてる。「これから耕介は買い物で忙しいそうだから、じゃあね、また」
「別に忙しいわけじゃ」
 明らかに耕介は不審・不満そうな顔をして、ぼくとミヤモトくんの顔を交互に見た。
「あのね、こういうことなんだ」
 ぼくは諭すような口調で、耕介に向かって話し始めた。「次の定期試験が終わったら、ミヤモトくんは大事な大会が始まるだろ、この前は迷惑かけたから、一緒に勉強頑張って、お礼しようって思ったんだ、万が一、赤点で補習とかあったらさ、大事な練習に差し支えるだろ」
「うんうん、それは、ナイスです!」
 耕介は目を輝かせながら叫んだ。「勝敗の行方は、うちの学校の名誉にかかわる問題だし、一組とか三組なんで小さな枠にこだわってる場合じゃない!」
「う、うん。そうだろ……」
 耕介の勢いにたじろぎながら、ぼくは答えた。「だからさ、ぼくがここにいる理由、わかってくれたかな」
「もちろん、こうなったら、この不肖吉村耕介、協力は惜しまないですよ!」
「えっ!」
 ぼくは絶句した、そしてチラリとミヤモトくんの顔を見た。
 ミヤモトくんは、ぼくと同じように、ひどく戸惑った様子で、ぼくと耕介とのやり取りを見ていたようだ。すがるような思いで、ぼくは言葉を続けた。「でもさ、耕介は忙しいんだろ……、そっちも大切だしね」
「なに、大丈夫、これしきの用事だったら」
 耕介は得意げにニヤリと笑った。「帰るまでに済ませりゃいいんだから」
「でも、悪いし、そんなの……」
 しまった!
 事態は咄嗟の下手な言い訳で明らかに悪い方向へ向かってる――、ぼくはそう直感した。今日の午後はミヤモトくんと二人っきりで過ごせるはずだったのだ。しかし……、ぼくは恨めしい思いを込めて耕介の顔を眺めた。
「さて、こんな場所で立ち話もなんだから」
 ぼくの視線には気づいてない様子で、耕介の妙に喜々とした声が響いた。「それじゃ、さっさと勉強に取り掛らないとね、時間がもったいないだろ」
 そそくさと自転車から降りる耕介の後ろ姿を半ば呆れて眺めながら、ぼくは助けを求めるような視線をミヤモトくんに送った。ぼくの視線に気づいたのだろう、ミヤモトくんは小さく肩をすくめて苦笑する。耕介に気づかれないように自転車から降りるふりをしながら、ぼくはミヤモトくんの傍らに並んで立ち、そっと肩を寄せてみる。
 ミヤモトくんの髪から、かすかにシャンプーのいい匂いがしたような気がした。


 三人でやった勉強会の効果があったかどうかは判らない。だけど誰も一教科だって赤点は取らなかったし、ぼくの成績もちょっぴり上がった気はする。

《続く》




おはようございます。
お邪魔虫の耕介が登場すると、こうなるという例です(笑)
このエピソードで起承転結のうち、承の部分が終わりです。ちなみに原稿用紙では69枚目になりました。


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