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厄介事は突然やってくる(14) 


 誰かと一緒にいたい、誰かと結ばれたい、そんな願い事が書かれた短冊が目についたから。その他には、勝ちたいとか、上手くなりたい、そんなのもあったけど、そうした願い事は少数派な気がする。
 来年も、たー君と一緒に海に行きたい――、手書きの少し歪んだハートマークが書き添えられた、きっと女の子が書いたに違いない丸みをおびた文字を眺めながら、ぼくはミヤモトくんの姿を思い浮かべた。
 もうすぐ夏休みだ。
 部活をしてない、ぼくみたいな暇人とは違って、ミヤモトくんは予定がギッシリで忙しそうだ。
 目の前で揺れている短冊みたいに海でもいい、どこか一緒に出かけたいな――、そんな気はもちろんある。二人きりでどこかに行けたら、きっと楽しいんだろうな、って。でも、どんな立ち位置でいたらいいんだろう……、そんなことで悩んでしまう。
 例えば海に行ったとする、よくあるポスターの普通の男女のカップルみたいに、はしゃいで、じゃれあったりしてもいいんだろうか、って思ってしまい、そうしている自分達がどうしても想像できない。
 先週、二人で出かけた時だって、ほんの少し手を伸ばせば触れあえる距離にいたのに、指一本、ぼくらは触れたりしなかった。
 仲のいい友達みたいに気安く冗談を言いあったり、からかったり、そんなデートみたいなもの。ぼくは一緒にいられるだけで幸せだって思うし、そのことに少しの迷いもない。
 でも腕を絡めて歩いているカップルの姿を横目で眺めながら、ぼくは羨ましく思ったのも本当だ。それにお邪魔虫の耕介のせいで未遂に終わってしまったけど、二人きりの勉強会には、ときめいてしまったし。
 文字通り結ばれたい――、それを思うとなんだか怖い気もするけど、同時に甘酸っぱい気持ちがこみ上げてくる。ミヤモトくんから最初に告白されたとき、不意打ちで抱きすくめられてしまったけど、もう一度、あんな感じで強く抱かれたい――、そう思う自分は確かに存在しているのだ。
「ごめん、待っただろ」
 不意に肩を叩かれて、ぼくは危うく驚いて飛び上がるところだった。振り返ると大きなバックを肩にしたミヤモトくんの姿が目に飛び込んでくる。
「ううん、それほどでもないよ」
 ぼくは動揺を隠そうと、平静を装いながら言葉を探した。「あちこち歩き回ったりしてたしね。ここは広いから、それほど暇じゃなかったよ」
「そっか、ならいいけど」
 ミヤモトくんは笑った。「あんまり待たせたら怒って帰っちゃうかな、って思って焦ってたんだ」
「怒ったりしないよ、だって……」
 だってミヤモトくんのことが好きなんだから――、その言葉がどうしても口から出せない。
 そんな自分をじれったく思いながら、ミヤモトくんの顔を上目遣いで見ただけだ。それは照れとかじゃなくて、そう言ってしまうのが怖かった。その一言で今の危うい均衡が破れてしまう――、そんな気がしたから。
 二人っきりの保健室で初めてキスをしたとき、どうしてあんなに大胆になれたのか、自分からしたことなのに、自分でも信じられない時がある。
 黙りこんでしまったぼくを、ミヤモトくんは不思議そうな顔をして見ていた。その視線は優しくて柔らかで、とがめる様な感じは微塵も感じられない。
「ああ、七夕なんだな」
 今になって急に気づいたような口調で、ミヤモトくんの声が響いた。「ここで待ってたんだろ。仁志は何か書いたの?」
「ううん、何も」
 ぼくは首をふった。
「なら、おれは書いちゃおうかな」
 はしゃいだ感じで、悪戯っぽくミヤモトくんは笑った。「よし、書くぞ」
 ぼくにだけ聞こえる程度の小さな声で宣言すると、ミヤモトくんは短冊の置いてあるテーブルに向う。そして高い背をかがめ、ペンを握って何か書いている様子だ。狭いコーナーで窮屈そうにかがめている丸い背中が、妙におかしくて笑えてしまう。
「いいか、恥ずかしいから見るなよ」
 ミヤモトくんは戻ってくると、照れて笑いながら、ぼくの顔を見た。
 ぼくの返事を待たずにミヤモトくんは背を向けて、ようやく手が届くような高いところの笹の枝に短冊に結びつけようと、少し背伸びをする。
 ぼくは悪いと思ったけど好奇心に駆られて、ほんの少しだけ顔を上げて、そっとミヤモトくんの手の先を盗み見た。偶然、ちらりと見えた短冊には不器用な、ごつごつした字で『仁志とずっと一緒にいたい』、そう書いてあるのが目に入った。さっきのミヤモトくんの口調は、半分おどけた感じだったから、あるいは見られることも意識していたのかもしれない。
 ぼくは嬉しくて――、同時に恥ずかしくて、ミヤモトくんの手から短冊を奪い取りたい、そんな気持ちを抑えるのに苦労した。そして盗み見ていたことがばれないように、ドキドキしながら慌てて明後日の方向に顔を向けて、何気ない様子を装う。
「うん、これでよし」
 何か一仕事終わらせた感じで、小さく手を叩くような仕草をしながら、ミヤモトくんはぼくに向き直った。
「そうだ、喫茶室でジュースとか飲んでかない? お喋りしようよ」
「うん」
 その返事を待っていたように、あの映画館の時みたいに、ミヤモトくんは手を伸ばして、ぼくの手を握った。それは本当に自然な感じで、ぼくのほうが驚いたくらいだ。でもそれが嬉しくて、ぼくは幾らか強く手を握り返した。ぼくが込めた手の力に気がついたのだろう、ミヤモトくんはぼくに向かって小さく微笑みながら頷いた。
 ぼくらは二人は歩き始めた。


《続く》




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