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厄介事は突然やってくる(15) 


 そして夏休みに入った。
 もう八月も半ばだから、既に長い夏休みも後半に入ったことになる。
 ミヤモトくんは強化合宿とかに出かけていて、もう三週間近く逢っていない。もちろん練習の休憩時間に電話があったり、就寝前にメールをくれたりはするけれど、長いやりとりなんて出来ないから、ぼくは正直なところ寂しかった。ミヤモトくんの存在に依存している自分に気づかされて、驚いたくらいだ。
『明日、帰ったらお土産持って行きたいけど、お昼から大丈夫?』
 そんなメールがあったのは昨日。
『荷物とか片付けてから、そっちへ行くよ、えっと2時くらいかな』
 そして今日。そのメールがあったのはお昼ご飯を食べていた時だ。

「あと十分で二時か……」
 ぼくはそわそわしながら呟いた。「そろそろ来るかな」
『それじゃ待ってるから』、そんなメールを返信してから、ぼくは大忙しだった。飲み物があるか冷蔵庫の中身を確かめ、少し散らかっていた自分の部屋の掃除をし、それからシャワーして汗を洗い流し、真新しい下着に着替え――、今は冷房を効かした自分の部屋でミヤモトくんを待っているところだ。
 チャイムが鳴った。
 ぼくは慌てて玄関に走る。
「こんにちは」
 もちろんそれはミヤモトくんの声。
 ドアを開けると真っ黒に日焼けしたミヤモトくんの懐かしい姿が目に飛び込んでくる。ぼくは彼の胸に飛びついてしまいたい衝動に必死に耐えた。
「はい、これ」
 ミヤモトくんが差し出したのは、小さな紙袋から取り出したキーホルダーだ。
 なんだか変な形をした――、よく見れば人に似た形だと辛うじて分かるようなキャラクターがぶら下がっている。「これ合宿地のご当地ゆるキャラで、うちの合宿所を訪問してくれたり、なかなかいい奴でさ、なんか変な顔してるけど、これ実はね、サンショウウオってやつで、なんだったかな、えっと……」
「外、暑かっただろ、さあ入って」
 ミヤモトくんは玄関に突っ立たまま、ゆるキャラの講釈を長々と始めそうな雰囲気だったから、ぼくは少し強引に遮った。「部屋、冷房しておいたから早く上がったら? ここより涼しいし」
「あ、そうだよね」
 ミヤモトくんはきょとんとした様子で、ぼくを見、それからようやく靴を脱ぐ。
「いっぱい話したいことがあるんだ、今日はゆっくりしていける?」
 つい早口になってしまい、少し口調がキツくなってしまう。ぼくはそれに気づいたけど、口の方が勝手に動いてしまい、なかなか直すことができない。
「う、うん……。時間は大丈夫だよ」
「よかった。ぼくの部屋、二階の手前だからさ」
 ぼくは目の前にある階段を指差した。「飲み物とか持って行くから、先に行ってて適当に座って待っててよ」



 なんであんな言い方をしたんだろう、せっかくミヤモトくんが来てくれたのに――、ぼくはそんな事を思いながら、ジュースを注いだコップをふたつ載せたお盆を持って、階段を上がっていった。
 一段上がるたび、コップの中の氷がぶつかりあって、カラカラと心地よい涼しげな乾いた音が聞こえてくる。だけどそんな音とは裏腹に、一歩一歩、自分の部屋に近づいていく毎に、気が重くなってしまう。
 もちろん謝るのが嫌な訳じゃない。ミヤモトくんに嫌な思いをさせたんじゃないか、そう思うと、つい気が滅入ってしまうのだ。
 そして恐る恐るドアを開く。
 ミヤモトくんはベッドの端に腰かけて、ぼくを待っていた。
「はい、ジュース」
 水滴がいっぱいついたコップを手渡しながら、ぼくはミヤモトくんの様子を窺う。ぼくの手から受け取ったコップの中身を豪快に飲み干して、いつもと変わらない無邪気な笑顔でミヤモトくんは笑った。
「ありがと、走ってきたから、喉がカラカラで。それに向こうは山ん中だったろ、帰ってきたら暑くて死にそうだし。あー、うまかった。生き返った感じがする」
「そっか、良かった」
 ぼくはミヤモトくんの笑顔を眩しそうに眺めながら、お盆を机の上にそっと置いた。自分用にと注いできたコップには手を伸ばさず、そのままだ。彼の笑顔を見ただけで胸がいっぱいになって、ジュースを飲む気なんて失せてしまったから。
「そういえば、話したいことがあるんだろ」
「うん、そうだった」
 小さく頷いて、ぼくはミヤモトくんの顔を見つめ、直立したままの姿勢で深呼吸をひとつする。
 そして叫んだ。
「寂しかった、寂しかった、寂しかったよ! ミヤモトくんのバカバカバカっ! でも大好きなんだ!」
 駄々っ子みたいに手足をバタバタさせながら、ぼくは一気に叫んだのだ。
 全て言い終えた時には息が切れてしまい、はーはーと肩で息をしているぼくの様子を、ミヤモトくんはポカンと口を開けたまま眺めていたけど、やがて大声で笑い出した。


《続く》




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