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同じ星のふたり(1) 



「くそっ! これじゃ死ぬぞ、マジで死ぬ……」
 際限なく流れてくる額の汗を拭いながら、ぼくは情けない喘ぎ声で愚痴った。
 今は体育の授業中で、しかも糞暑いというのに長距離走だったりする。こんな馬鹿げたカリキュラム組んだ奴の正気をマジで疑ってしまうし、実際、ぶっ倒れたりしたらどうするつもりなんだろうと思うと腹がたつ。まだ真夏というには半月ばかり早いけど、梅雨の曇り空から、たまに太陽の光が漏れてくる――、そんな午後。
 グランドからユラユラと陽炎みたいに湯気が立ってるんじゃないかと思うくらい、蒸し暑い。不快指数っていう表し方をしたら、まだ真夏の方がマシな筈だ。まるで水の中にいるみたいに湿度が高いから、身体中から滲む汗は少しも乾かないで、そのままシャツに溜まっていく気がする。一歩、疲れきった重い足を踏み出すたびに、シャツの端から雫が飛んでいそうだ。実際、ぼくのすぐ前を走ってる島村徹のシャツは汗でべったりと身体に張りついて、ほとんど背中が透けてしまっている。こいつの背中には、星のような形をした五センチばかりの小さな痣があるのだけど、汗に濡れたシャツを透かして、それがくっきりと浮かび上がって見えていた。
 ぼくの頭の中と言えば、もう燃え尽きる寸前で空白に近かった。ぼくには徹の背中にある痣が唯一の道標という感じで、それを目印に機械的に足を動かしているだけだ。
「あと三周ってか……。確かに死ぬよな」
 ぼくの愚痴が、きっと聞こえたんだろう。
 徹は少しペースを落として、ぼくと並走しながらニヤリと笑って見せた。まだ余裕がありそうな感じの笑顔が頼もしい。「まあ死ぬならさ、早めにサッサと死んじゃいな、そうすりゃ授業が中止になって、クラス全員が助かるだろ」
「そりゃひどい!」
 ぼくは冗談めかして徹に向かって拳を突き出した。
 もっとも走りながら膝がガクガクするくらいヘタリきっていたから、ぼくの拳は生ぬるい空気を少し掻いただけで終わった。
 そのあたりの事情は徹も同じだったらしい。
 普段からは考えられないような緩慢な動作で、よろよろと避けようとし、その拍子に足が絡まって、危うく転びそうになる。
 それを見て、ぼくは慌てて手を差し出した。
「あ。ごめん……」
 ぼくらは顔を見合わせ、笑った。
 なぜなら同じ言葉が同じ口調で、ふたりの口から漏れたからだ。
 ぼくらは足を止めて立ち止まり、膝に手を当てたまま荒い呼吸を整えた。額から頬を伝って落ちた汗の雫が地面に砕けて黒いシミを作っては、すぐに消えていく。
 グランドの中で立ち止まり、肩で息をしているぼくらの脇をすり抜けて何人かの生徒が走り抜けて行った。そうやって足を止めている間は順位が確実に落ちてるんだろうけど、もうまるっきり気にならない。いっそのこと、このまま脱落したい――、そう心から思っていたのが正直なところだ。

《続く》




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