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黒き輪廻、蒼天の輪舞(01) 


一四七六年 ワラキア

 トゥルゴヴィシュテの街は死に絶えたような静寂の中にあり、ひっそりと夜の闇に沈んでいた。
 月明りのない暗い夜。建物の窓からこぼれる灯りも、数えるほどしかない。
 そびえ立つ教会の尖塔の先端は、闇の中へ消え入るように延びている。その鐘楼を飾るのは複雑な石造の装飾物だ。しかし、うっすらと市街を包む夜霧の中で、鐘楼を飾る彫像たちは、ねっとりとした闇の中で静かに佇んでいる。
 ごくたまに静寂を破って大気を震わすのは、城壁の外から響いてくる獣たちの咆哮だ。おそらく縄張りを争ってのことに違いない。しかし山野に住まう獣たちが争うことは、少なくともこの地では滅多にない。それは彼らの餓えを満たす食物が、ふんだんに供給されていたからだった。
 微かに市内を異臭が漂っている。
 それは街を囲む城壁の外に立てられた無数の串刺し死体から発する屍臭だ。
 彼ら無言の死者たちは野犬や狼といった獣たちが近寄らぬように焚かれている篝火に守られて幾重にも蛇行しながら街道に沿って行列している。
 それぞれ苦悶の表情を凍り付かせたまま、昼夜を分かたず無言劇を演じていた。今にも苦悶の声の聞えてきそうな生々しく比較的新しい死体から、既に長く日に曝されて干乾び、ほとんど白骨と化したものまで様々だ。
 死者たちの身分も様々らしい、それは彼らの纏っている衣類を見れば明らかだった。豪奢に着飾った貴族と思われる者から、粗末な襤褸を纏った者まで、死して後も空虚な違いを主張しているのだ。
 死者たちの苦悶に満ちた眠りを護るため――、獣たちを遠ざける目的で焚かれている篝火だが、最近ではむしろ無言劇の舞台装置でしかない。明々と燃え上る篝火、そして巡回する番兵たちの姿にも慣れ、まったく臆することなく獣たちは死体の列の間を跳躍し、空腹を満たしては互いに戯れ合っていた。
 無邪気に戯れる獣たちは単調な死体たちの無言劇に若干の変化を与えている。まるで道化の役割を果たしているようにさえ見える。

 長年この街に暮らす人々は、すでにその臭気に馴れ、ことさら気に病む者はいない。むしろ城壁の内に暮らす人々にとっては、君公の人気は上々だった。確かに峻烈な容赦のない刑罰を下すことで他国の人間はもちろん、自国の者からも恐れられているのは確かだ。
 しかし街には他国の都市のどこにも見かける乞食の姿はなく、驚くほど市街は清潔に保たれていた。犯罪は恥ずべきこととして厳格に取り締まられ、市街はもちろん、山野にも盗賊、野盗の類が跋扈横行することもない。秩序と安寧は保たれ、国を統べる君公の威令に服する限り、どの国の、どの街よりもトゥルゴヴィシュテの街角は安全と言えたのだ。


<<続く>>




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