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【冬企画参加】冬の宝物(02) 


「ちょっと、聡、こんな時間にどこに行くの?」
 僕たちが靴を履き、玄関から出て行こうとした時、おばさんの怒ったような声が背中越しに聞こえてきたのだ。僕もどこに行くのか知らされてなかったから、どんなふうに答えるんだろう――、そう思いながら聡の顔をそっと盗み見た。
「初詣だよ、ずっと雪だっただろ、行けなかったし」
「なんだってこんな時間に」
 おばさんは呆れたような声だった。「まあ、あんたは言い出したら聞かないからね、誰に似たのか知らないけど頑固だし。早く帰るのよ」
「うん、わかってるって、それじゃ行ってくるからさ」
 聡は聡で、ホッとしたような口ぶりだ。ヤバイ、引き止められる、きっとそんなふうに思っていたに違いない。うちの母さんって口うるさいからなあ――、聡が何度も愚痴ってたのを思い出して、僕は笑いを押し殺すのに苦労した。
 聡の家族って、みんな仲がいい。
 僕は誰よりも、その事を知っている。
 いつも聡の家に入り浸っていたし、ほとんど家族同様に扱ってくれてたからだ。だから時々、おばさん達を騙してる――、そんな思いに捕らわれてしまう事がある。おばさん達は、僕たちが単に仲のいい幼馴染、って思っているに違いないからだ。僕らの本当の気持ちを知ってしまったら、どんな顔をするんだろう――、そう考えると少し怖かった。
「おい行くぞ、さっさとしろ」
 ドアが開く音がして、同時に聡の声が狭い玄関に木霊した。
「それじゃ、おばさん行ってきます」
「帰ったら直ぐに暖ったまるように、うんと熱いお風呂を沸かしておくからね」
 おばさんは、にっこり笑った。聡には口やかましいかもしれないけど、僕には優しい。
 おばさんに見送られて、僕らは雪の道へと歩き出した。


「ほんとだ、もう止んでる」
 それは玄関を出て、僕の口から最初に漏れた言葉だ。「でも凄いなあ、絶対、五十センチは積もってるし!」
「さっき言ったとおりだろ、なんだ信用してなかったのか」
「うん、いちよう信じてたけど」
「なんだ、そのいちおうって」
 真面目な顔をして大袈裟に冗談っぽく言うから、つい笑ってしまう。
 雪の積もった道を用心して歩きながら、僕は数日来の天気を思い出した。
 雪が降り始めたのは、僕が聡の家に着いた日の夜遅くからだ。
 僕には雪が珍しかったから、その様子を窓際で眺めてた。だからよく覚えてる。
 それから雪は断続的に降り続き、結局、今日になるまで降り止まなかったのだ。テレビのニュースでは何十年ぶりの大雪だとか、列車が動けなくて運休してるだとか、さかんに流していた。
 だから列車が動かなけりゃいいのに――、って思ったのだ。
 もし列車が運休してたら聡と一緒にいられる時間がそれだけ増えるだろうし、家に帰らなくてもいい大義名分にもなったはずだ。
 でも現実は真逆だった。
 そんな事を考えながら、ちらっと見上げた夜空には星がいっぱい瞬いていたのだ。
 雪が降り続いていた頃の塗り込めたような重苦しい雲なんて、ひとかけらもない。
 雪のせいで一歩も外に出られなかったから、僕らはその間、ゲームをしたりテレビを見たりして過ごしてた。それはそれで楽しかったけど、こっちに来る前、聡が色々と案内してやるって言ってた事を思い出した。結局どこにも行けなかったから、こんな夜になって急に初詣なんて言い出したのかもしれない。
 そんなことを思いながら、僕は雪道を黙ったまま歩き続けた。
 聡も黙ったままだ。
 雪を踏むサクサクって音だけが妙に大きく聞こえる気がする。それくらい町全体が静かだった。しんと静まり返ってる感じだ。もちろん家々の窓からは明るい光が漏れてるし、まだ深夜って時間じゃない。
 仄かな青白い雪明りに浮かび上がる聡の住む町は、不思議な、でも人を拒絶するほど冷たくもない優しく柔らかな静寂に包まれていた。
 そんな中を、ぼくら二人は歩き続けたのだ。


《続く》


冬の宝物
「BL観潮楼・冬企画「冬の宝物」参加作品です。





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