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【冬企画番外編2】チョコレートの日(02) 

チョコ売り場


「最初に言っておくけど」
 僕は自分の前のテーブルに並んだドーナツの乗った皿と湯気の立ちのぼるカフェオレの入ったカップをチラッと眺めてから、正面に座っている菜緒子に目を向けた。「このドーナツに釣られたわけじゃないからね、古い知り合いが困ってるみたいだったから」
「うんうん、わかってる」
 菜緒子はニヤッて意地悪そうに笑う。「わたしだって淳ちゃんとデートしてるみたいには見られたくないもん」
「デ、デートだって?」
 考えたこともない言葉に何だか急に顔が火照ってきて、急に熱くなった気がする。
 もちろん何度も聡とはデートっぽく会ったりしてるけど、そういえば女の子と二人っきりで、しかも差し向かいに座って話すなんで初めてだ。
「あはは、何照れてれるの? 赤くなってるよ」
 まるで珍しいモノでも見るような目で僕を見ながら、面白そうに笑う。
「べ、別に、赤くなってない」
 僕は口を尖らせて反論した。「ここが暑いからだよ、暖房効きすぎてるんだ」
「それじゃ、そういう事にしておくわ」
 それだけ言って菜緒子は急に真顔に戻った。「お願いって言うのはね、野崎くんの住所、教えて欲しいの」
「えっ! 野崎って、ひょっとして聡のこと?」
「そう」
「どうして?」
 僕は瞬時に問い返した。
「どうしてって――」
 菜緒子は言い澱んだ。
 一瞬、救いを求めるような目で僕を見て、そしてすぐに大きな溜息をついた。「やっぱり淳ちゃんって……、いいわ、答えてあげる。野崎くんにチョコあげたいの、つまり義理じゃないやつ」
「……!」
 僕は絶句しながら喘いだ。
 目の前が急に真っ暗になった気がしたのだ。
「どしたの?」
「なんでもないよ、僕の事なんてどうでもいいし……、それより何で今さら?」
「別に今に始まったわけじゃないけど」
 もう一度、菜緒子は溜息をついた。「ずっと昔、たぶん中学の頃から野崎くんの事は気になってたわ。でも遠くから見てるだけで、なんだか満足しちゃてて……。それが急に引っ越しちゃったでしょ、それで自分の気持ちに改めて気づいたの」
「そんな奥手だなんて知らなかった」
「だって、いつもお邪魔虫の淳ちゃんが野崎くんに張り付いてたし」
「お邪魔虫……、張り付くって……」
 僕は呟いた。
 そんな風に見えてたなんて思いも寄らなかったからだ。
 そりゃ聡とは凸凹コンビだし、自分でも聡とは似合いだなんて思った事はないけど、少しショックだった。
「あはは、ごめんね。お邪魔虫って言うのは半分冗談だけど、すごく羨ましく思ってた。ほんとに仲が良さそうだったし、野崎くんと淳ちゃんって。それで今でも連絡してたりするんでしょ?」
「う、うん、まあね。メールとか、たまに来るかな……」
 なんだか見透かされてるみたいな気がして、どうしても返事が歯切れ悪くなってしまう。毎日、それも寝る前に必ずメールしてるなんて、とても言えない。
「だからチョコ売り場で淳ちゃん見かけた時、これは運命かも――、そう思ったの」


《続く》


冬の宝物
「BL観潮楼・冬企画「冬の宝物」参加作品です。





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