FC2ブログ
05« 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.»07

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告  /  tb: --  /  cm: --  /  △top

大唐夜話(01) 


 王宙は初唐の人である。
 高宗の后だった武照が国を奪い周を建てた頃。
 若くして父母を亡くした王宙は生まれ故郷の太原を離れ、清河に住む叔父の張溢を頼り、旅路の途中にあった。幼いころより手先が器用で、彫刻を得意とする人であった。

 翌日には叔父の住む町へ着くという時だ、人里離れた山道で大きな槐(えんじゅ)の木を見つけた。
 仰ぎ見ても頂が見えず、数坪の大きさに陰を落とし、幹に腕を回しても手が届かぬ程の大木である。王宙が感嘆したのは数斗入りの甕ほどもある大きな瘤が四つも付いていることだった。
「ああ、なんという瘤だろうか」
 槐は彫刻の素材としては硬く粘りがあり、加工し難い材だ。特にその瘤は硬い。
 しかし丹念に磨くことにより美しい光沢が出る。手間を厭わなければ、細工を施す素材としては秀逸だ。しかも瘤には特有の神秘的と云ってもいい程の美しい模様がある。
 その模様が玉の如く光沢に彩られている様を思うだけで溜息が漏れた。
「何としても欲しいものだ」
 しかし今は旅の途中。道具など何もない。
 また仮に切り出せたとしても運ぶことは出来ない。
 これだけの素晴らしい素材が誰かの目に止まらぬとも限らない。
 思わず腕を組み考える。何か良い思案はないか――、と。
「そうだ」
 宙は衣類を収めた行李を解き、紙を探す。
 懐から愛用している細工用の小刀を取り出すと、紙を器用に裂く。
 たちまち紙銭が出来上がる。
 そして、それを瘤の辺りへと掛けておく。
 その様を見て、軽く笑う。
「これでよし」
 これで誰もがこの槐を神木と思い、軽々しく伐ることを遠慮するだろう――、と。


 王宙が頼った叔父の張溢は寡黙な人柄で、進士に及第し官途に就いた後は黙々と職務に励み、清廉な人として世に知られていた。
「叔父上、お世話になります」
「よく来た。お前の父には、ほんとうに世話になった。これからは、この叔父を父と思い、この家を我家と思うがよい。何も遠慮することはないのだ」
 そう云いながら、王宙を家族へ引き合わせた。
 上品そうな叔母と、従姉妹にあたる倩娘の二人だ。倩娘には姉がいたのだが、早くに亡くなり、今は親子三人で暮らしている――、そう張溢は王宙に語った。
「親の自分が言うのもなんだがね、倩娘は並みの娘より数段以上は美しい、当家の宝だ」
「まあ、父様ったら……」
 恥じらう姿を見て、王宙は一目で恋に落ちた。
 その容姿、その華やかな様子は数段どころの話ではないと思う。端正なうちにも艶やかさを秘めた美少女だ。
 輝くほどという表現があるが、この従姉妹にこそ相応しい――、そう王宙は思った。
「倩娘よ、この王宙はお前には従兄弟にあたるが、父母を亡くし、当家を頼ってやってきた。亡き義兄には並々ならぬ恩義もある。これからは息子も同じゃ、お前も兄と思い、粗相のないように」
「はい」
 倩娘は王宙を真っ直ぐに見て、軽く会釈しながら言葉を続けた。「お兄様、よしなにお願い申し上げます」
「いや、こちらこそ」
 たちまち王宙の顔は火照った。それだけ言うのがやっとだ。
 その様子を見たのだろう、張溢は手を打ち、にこやかに顔を綻ばせた。
「おお、いま気づいた。年恰好と云い、似合いの二人ではないか、どうだ宙よ、この娘を嫁に貰ってはくれぬか」
 その言葉に今度は、倩娘が顔を赤らめた。
「叔父上、そのようなお戯れを――、このように倩娘どのも迷惑しております」


《続く》





↓↓よければポチッとお願いします。↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ [ にほんブログ村 ] ランキングに参加してます。

↓↓作者宛メッセージはこちらへ。↓↓
スポンサーサイト
小説:大唐夜話  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。