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【冬企画参加】冬の宝物(04)【最終回】 


「ここから先は石の階段だからな、滑るから気をつけろよ」
 僕たちは足を止めて、丘の上へと続く石の階段を見上げた。
 階段の左右には街灯が立っていて、周囲の雪景色を青白く浮かび上がらせている。視線の先には大きな鳥居の姿が暗がりを背景に聳え立っていた。そして階段の左右は除雪された雪の山の連なりだ。
 僕らがこれから登って行こうとしている階段は、除雪された後に降った雪で淡く覆われていた。それはまだ誰にも踏まれていないらしい、まるで真っ白なふわふわした絨毯みたいだ。僕らの為に敷かれた絨毯――、そんな感じにさえ思えてしまう。

 一段一段、僕らは真新しい足跡を刻みながら階段を登っていった。
 もちろん聡は僕の手をしっかり握ってくれている。うかつに足を滑らせて二人一緒に転げ落ちたら洒落にならないから、今まで以上に慎重に足元を確認しながら僕は足を運んだ。
「やった、これで終わりだ!」
 最後の一段を登りきった時、僕は思わず声を上げていた。
 途中から数え始めたから正確ではないけど階段は四十段近くはあったはずだ。軽く汗ばむくらい身体の芯からポカポカする。
 頬に触れる夜の冷たい風が心地いい。
「ほら、後ろを見てみろよ」
「へー! 凄く綺麗だ」
 聡に言われるままに振り返った時、僕は息を呑んだ。
 地上の家々は、ぼんやりと青白い雪明りに浮かび上がって見えている、そして空!
 空いっぱいに星が瞬いていたのだ。
 今まで僕が見たどんな夜空よりも綺麗だったし、こんなに多くの星を見たことがない。僕の住んでいた街では、星なんて微かで気をつけないと見えなかったけど、ここは違う。どっしりと大きく光り輝いてる――、そんな感じの星々だ。
「そうだろ」
 聡は自慢気に続けた。「この町って田舎だし、あまり自慢できるものないけど、この夜空だけは別だ、こっちに来てから、ずっと見せたいと思ってたんだ」
「うん、凄い」
「だろ」
「あれは雲かな」
 僕は空の一番高い辺りを指差した。
 空を横切るように、ごく淡い光の帯が伸びているように見えていたのだ。
「ああ、あれか。あれは天の川だよ」
「えっ、天の川? だって今は冬だよ、七夕とか夏じゃん」
「あのな、冬にも天の川は見えてるんだ」
 聡は妙に澄ました口調で説明してくれた。「春以外はいつの季節だって天の川は見えている。濃いか淡いかの違いはあるけどな」
「そっか、なるほどね。でも変だな、いつからそんなに詳しくなったの?」
 僕は首を傾げた。そして聡の顔を覗き込んだ。
 僕が知っている限り、聡がこんなに星に詳しいなんて思わなかったからだ。というよりも全く興味なんて持っていそうもない聡を知っていたから尚更だ。
 あれは今ほど背の高さが変わらなかった小学生の低学年の頃だったと思う。遠足で隣町のプラネタリウムまで行った時の事だ。心地いい音楽が流れてきて丸いドームの中が次第に暗くなり、上映が始まった頃にはスースーって平和な寝息を立ててた聡の姿を僕はしっかり目撃しているのだ。
 聡は咳払いをワザとらしく一つして、そしてニヤリと笑った。
「ばれたか、ばれたら仕方ないな。こっちに来てからずいぶん経った頃だ、こっちは星が綺麗だ、って気がついた。それで見せたいって思ったんだ。だけど今夜は晴れてます、星が見えます、とっても綺麗です――、それで終わったら味気ないだろ、本を読んだりして勉強したんだ」
 僕はくすくす笑った。聡の言い方が面白かったからだ。
「僕のために?」
「ああ、そうだ」
 あっさりと、少し照れくさそうな顔をして聡は認めた。「一緒に見たかったんだ。一緒なら、もっと楽しいだろ」
「それじゃ教えてよ、何も知らないから。こんな綺麗な星、今までに見たことないし」
「よし、教えてやる」
 聡は空の一点を指差した。
 ぼくもその先に視線を向ける。そこにはとても明るい星が輝いていた。
「あれがシリウスだ、それで斜め上の少し赤っぽい明るい星がベテルギウス、こっち側のがプロキオンだ、三つを結ぶと綺麗な三角形ができる、これが冬の大三角、どっかで聞いたことないか?」
「冬の大三角……」
 僕は呟いた。確かに聞いたことがある気がしたのだ。「ああ、思い出した。そうだ、理科で習ったんだ」
「ここまでは教科書にも載っている、もっと凄いの教えてやるよ」
「うん」
「それじゃ、さっきのシリウスに戻る、そこからプロキオン、ポルックス、カペラ、アルデバラン、リゲルって結ぶんだ。そうすると巨大な六角形になる。冬のダイヤモンド、巨大な宝石なんだ、冬の宝物だよ」
「ああ、ほんとだ」
 その時、僕は初めて気づいたのだ。
 いつの間にか聡は僕の肩に腕を回して、しっかり肩を抱いていたことを。もちろん嫌なんかじゃない。僕にとって一番の宝物は、こうして夜空の宝物を一緒に眺めていられる聡なんだから。僕は手を伸ばして、そっと肩の上の手に重ねた。ずっとこうして抱いていて欲しい――、そう願いながら。

 僕らは星空を眺め続けた。
 やがて星々が西に傾き、新たな星たちに空の主役を譲るまで。


《終わり》


冬の大三角



冬の宝物
「BL観潮楼・冬企画「冬の宝物」参加作品です。





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