FC2ブログ
04« 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.»06

いつか見上げる空の色(27) 


「ああ、ここだ。どうだ、景色がいいだろ」
 コウさんは自慢そうに言った。ぼくら二人は、なだらかな芝生の丘のてっぺんに立ち、眼下に広がる景色を見下ろしていた。コウさんが指差した先は、広い芝生広場の一角だ。
 数十メートル先に丸太を模したような柵があり、そこから先は鬱蒼とした木立が続く森になっていた。その森を越えてさらに向こうには小さく街が見えている。大きなビルがまるでマッチ箱みたいだ。もっと彼方はキラキラ輝いていて、それはきっと海に違いない。海と空との淡い境界線が陽炎みたいに揺れながら見えていた。
「うん、凄い!」
 ずっと向こうまで見渡せる景色に感動して、ぼくは叫んだ。
 ぼくが住んでいた町は山に囲まれた内陸の盆地だったから、海を眺める機会なんて滅多に無かったのだ。いちばん最後に海を見たのは中学の時に遠足で出かけた時だったから、もう二年も前の出来事だ。すっかり海なんて忘れていた。
「夏にあの浜辺で大きな花火大会があるんだ。その時はここも人でいっぱいになる」
 コウさんは喋りながら、皮肉っぽく笑った。「こっちの方が花火より高いから、ずいぶん下の方で花火が開くけどな」
「下なんだ、でもなんか変な感じだね」
 どんな感じなんだろう――、あれこれ想像してみたけど、ぼくはその様子をどうしても頭に思い描くことができなかった。でも何だか面白そうだから、くすくすと笑えてしまう。「でも見てみたいな」
「下の方で光の花が咲いたみたいに見える。ここからだと打ち上げ場所までは遠いから、その花が消えてから、ようやくバーンで音が聞こえるんだ」
「へえ……」
 ほとんど上の空で、ぼくは花火の様子を想像していた。
 花火は下から見上げたことしかないからだ。ぼくが住んでいた町でも、町を貫いて流れる川の川原で小さな花火大会があった。最近は人に会うのが嫌だったから行ってないけど、小さなころは母さんに手を引かれて何度も行った。母さんの手のぬくもりや、花火の炸裂する音が凄くて、その音に怯えて泣き出しそうになったこと――、もう忘れていたはずの記憶が急に蘇ってきて、悲しいくらいに懐かしい。
 そんなことをぼんやり思っていたら、コウさんが歩き始めたから、ぼくは現実に引き戻されて慌てて後を追う。数歩先にコウさんが腰を下ろすと、ぼくも並んで芝生の上に座り込んだ。
「だけど、そうだな――、今みたいに誰もいない冬の方が好きだ、この場所を独り占めできるだろ」
 遠くを眺めながらコウさんの言葉を、ぼくは黙って聞いていた。
 柔らかな風が芝生の上を渡って行き、背中に降り注ぐ太陽の光でぽかぽかと暖かい。
 少し迷ったけど、ぼくはコウさんの手の上に自分の手をそっと重ねた。さっきまで握り合っていた手だ。再び手の温もりが感じられて少しホッとする。コウさんの何か言いたげな視線を感じたけど、でも何も聞こえてこなかった。
 何か喋らなきゃ――、ぼくは焦った。だけど気の利いた台詞なんて、ひとつも思い浮かばない。

《続く》






↓↓よければポチッとお願いします。↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ [ にほんブログ村 ] ランキングに参加してます。

↓↓作者宛メッセージはこちらへ。↓↓
スポンサーサイト