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夏の記憶(01) 


「晴れないな……。せっかくの月食なのに」
 窓の横から空の彼方を見上げながら、康介が呟いた。
 今夜は月食の夜だ。
 本当は月食が起こるのは明け方だったから、だから今夜というには少し語弊があるけど、やはり見ようと思ったら、ずっと朝まで起きてるつもりでいた方がいい。今回は日本からは月が欠けたまま西に沈む月没帯食ってやつだ。前に見たのは皆既食だったから、それに較べれば、いくらか見劣りはする。
 でも年に何度も月食が見れるわけじゃない。だからとても楽しみにしていたのに、今のところ時計の針はようやく二時になろうとしてたけど、空は憎たらしいくらいべったりした曇り空だ。
「やっぱりダメかな」
 ぼくも眺めていた古いアルバムから顔を上げて窓を見た。
 もっとも窓を見たところで、部屋の中は明るいから真っ暗な窓があるだけで外の様子はわからない。晴れてれば康介と近くの公園へ望遠鏡を持って出かけるつもりだったけど、曇ってて月が見えなかったら行っても意味がない。月は明るいから小さな雲の切れ間さえあればなんとかなるのにな――、そう思いながら、ぼくは小さくため息をつく。
「うん、かなりヤバそうな曇り空だよ」
「そっか……、まあ仕方ないな。天気だけは運まかせだもんな」
 ぼくは諦め顔で、さっきまで眺めてた古いアルバムに再び目を戻しかなかった。
 そこには、すっかり色褪せた古い写真が貼られていた。ぼくが住んでる家をバックにして、その写真は新築当時だったから、かなりくたびれてきた今とは少し様子が違うけど――、そこに写っているのは、虫捕り網を手にした、まだ小さな頃の康介とぼく、そしてつばの広い麦わら帽子をかぶった、ぼくらと同じくらいの年頃の男の子の三人だ。
「へえ、懐かしいな」
 ぼくの肩越しに割り込むような姿勢で、康介がアルバムを覗き込んだ。「この時のこと、よく憶えてる」
「うん、ぼくも」
 それはぼくらが友だちになって間もない頃の写真だ。
 ぼくら二人は博物館の天文クラブで知り合った。それまでも同じ小学校に通ってたけど、クラスが違ってたから、互いに知らなかったのだ。でも同じ学校だとわかって、たちまち仲良くなった。その写真を撮った時、今と同じ夏休みの真っ最中で、ぼくらは自由研究の相談をしていたのだ。
 と、その時だったはずだ。
 窓をコンコンって叩く小さな音が聞こえたのだ。
 なんだろう――、そう思いながら窓の外を見ると、この子がいた。
 ねえ、これから虫捕りに行こうよ――、って誘われたのだ。慌てて準備を終えて家から飛び出していく時、ぼくらを呼び止めた父さんが撮ったのが、この一枚だったのだ。
「そういえば、おれたちが森についたら、すごい雷になったんだよな、そしたら」
 ぼくの顔をじっと見ながら、面白いことを思い出したような感じで康介がクスクスと笑い出した。
 そんな康介の笑う様子を見ながら、ぼくは不満気に口を尖らせる。
「そんなに笑うなよ。だってさ、しょうがないだろ、ほんとうに怖かったんだから……。もちろん今は平気だけど、まだ小さな子供だったんだからさ」
 あの雷の午後の出来事を思い出すと、今でも恥ずかしく、できたら何もなかった事にしたくなってしまう。
 空がすっかり暗くなりポツポツと降りだした大粒の雨を、ぼくらは森の木の下で雨宿りしていたのだけど、あまりに雷が凄くて――、大地が揺れんばかりに轟く音と稲妻に動転したぼくは泣き出してしまい、それを宥めてくれたのが康介と、この子だったのだ。

《続く》






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