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同じ星のふたり(12) 


「あ、この鏡……」
 それは昼間、夢の中で見た小さな頃のぼくらの姿を映していた鏡だ。
 あれは単なる夢じゃなくて、確かにあったような気がする。じゃれあって、はじゃぎながら入るお風呂は、ぼくらにとっては遊びの延長だったから。ふざけてお湯をかけ合ったり、互いの身体に他愛のない悪戯をしてみたり――
 そんなふたりを、この鏡は映し、見守っていたことは間違いない。でも今は鏡に映っているのは、ぼく一人だけだ。
 今、鏡の中には、どちらかというと貧弱な、ぼくの裸の身体が映っている。
 ひょろひょろした感じで、肩なんて丸っこいし、あばらが少し浮き出てる貧弱な薄い胸。もう夏だから半袖シャツの日に当たる部分だけは日焼けしているけど、首から下は真っ白なままだ。まあ、足だけは人並みに長いかもしれないけど、逞しさとは縁遠い、ひ弱ですぐにも砕けてしまいそうな、そんな線の細い足。
 それに顔だって十人並みだ。
 自分でも目立たない、ごく平凡な顔立ちだと思う。少し癖の有る髪の毛が、すっかり湿気に負けで、額にべったりと張りついている。
「いいところなんて、まるでないな」
 鏡に映る自分の姿を見ながら、自嘲気味に笑ってしまう。
 こうしてみると、何もかも徹とは正反対じゃないか――、そう思えてくる。
 あいつは今はやめてしまったけど、中学の時は部活でサッカー、それもレギュラーでやっていたから、今でも無駄のないガッチリした身体だ。
 ぼくは今日の体育の授業で前を走ってた徹の汗で濡れて透けた背中を思い出した。
 胸板だって厚いし、もう立派な大人だ。頭もいいし、人気だってある。クラスでもその他大勢の一人に過ぎないぼくとは、まるで違う存在だ。
「どうして徹のことばかり考えてるなんだ、あいつはぼくの何なんだ?」
 ぼくは思わず呟いていた。
 憎らしく思えるくらい、ぼくの頭の中は徹でいっぱいだったのだ。
 逆にそれ以外の事なんて、まるで今は考えられない。
 あいつの頭の中で、ぼくという存在は、いったいどれほどを占めてるんだろう――、そんな疑問が浮かんでくる。あいつの頭をこじあけてでも知りたいような、でも怖くて知りたくないような――、そんな疑問。

「ああ、そっか…、頭を洗わなくっちゃな」
 浴槽にお湯が落ちる小さな滝のような音が、ぼくを妄想から現実に引き戻した。
 裸で鏡の前に立ったまま、ぼんやりと妄想にふけっていたのだ。浴槽を見ると、まだ半分もお湯は満たされていなかった。
 まだ頭を洗うくらいは十分に時間の余裕がありそうだ。もちろんシャワーからも水を使うし、それで浴槽にたまっていく水の勢いは鈍って、ますます時間がかかるだろう。
 小さくため息をついてから、プラスチックのお風呂椅子に、ぼくは腰を下ろした。


《続く》




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