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氷雪の漂泊者(14) 


 鋭い槍の穂先が自らの胸を貫く――、そう思われた、その刹那。
(……!)
 何かが自分の中で弾けたような鋭い衝撃が走った。
 一瞬で意識が麻痺し、全ての感覚が消し飛んだのだ。
 誰かが叫んでいたような気がする。
 だが何も見えなかった。
 光の洪水――、そうとしか云いようのないものが視界を覆い尽くしたのだ。一瞬で世界が真っ白な眩い光の中に溶け込んだのだ。
 時間の感覚が全く失われていた。
 やがて視界が色彩を取り戻し、視力が戻ってくる。
 目前に広がる世界が不思議なくらいに赤茶けて見え、思わず反射的に目を擦った。
「血だ、どうして……」
 目を拭った手が赤く染まっていた。
 そして嫌な臭いが鼻をついた。生臭い血の臭い。
 嫌な予感に怯えながら、恐る恐る前方へと目を向ける。
「……!」
 そこは一面の血の海だった。
 まるで原形を留めぬほどに砕かれ引き裂かれた無数の肉片や臓物が周囲に飛び散り、その中に槍を握り締めたままの腕が無造作に転がっていたのだ。
 それだけではない。
 血と砕けた肉片の中に薄ら笑いを凍りつかせたままの首が鎮座し、白く濁った虚ろな目が、まっすぐに自分を凝視していた。
「うげっ!」
 不意に激しい嘔吐がこみ上げてくる。
 へなへなと腰を折って蹲り、何も見まいと両手で顔を覆う。
 しかし血に塗れていたのはその両手だけでなかった。腕も、いや全身に点々と返り血を浴びているのが目に映ったのだ。
「これを……、わたしがやったのか……、嘘だ! イヤだ!」


「違う、嘘だ……!」
 レナの呟き声で、キオは我に返った。
 慌てて周囲をを見渡した。
 そこには見慣れた光景が広がっている。
 ほっ、と安堵の吐息が漏れた。
「あれは夢だったんだ、この人の……」
 キオは呟きながら、傍らに横たわるレナの姿に目を向けた。
 レナの固く閉じられた目には涙が浮かび、苦悶に表情が歪んでいる。
 端整な顔立ちだけに痛々しい。
 キオはレナの頬に残る涙を、指先でそっと拭う。
 暖かな涙だった。
 不思議なくらいキオマ指先にはねその暖かさが伝わってきたのだ。
 指先が触れた瞬間、びくりと身体を震わせてレナは目覚めた。
「ここは……。ああ、そうか……」
 怯えた幼い子供のように周囲を窺いながら身を起こす。
 心配そうに見つめるキオと目が合い、レナは弱々しく微笑んだ。
「ああ、キオか」
「起こしてしまったようです、すみません」
「いいんだ。悪い夢を見ていた。あんな夢は見たくない」
 力のない、呟きに近いレナの声だった。
「……!」
 ほとんど衝動的だった。
 キオは何も考えず、気づいた時にはレナの肩を抱しめていた。
 その目からは涙が溢れていた。
「あなたのせいじゃない」
 キオはレナの耳元で囁いた。
「あの夢を……、あれを見たのか」
 躊躇いがちにレナの声が低く響いた。
「はい」
「そうか……。あれは本当にあった事だ、妄想でも夢なんかではない」
 レナは観念したように目を閉じた。
 そして吐き捨てるような口調で続けた。「怖いだろ、わたしが――、わたしは化け物だ。人を引き裂き、砕いてしまう化け物なんだ」
「いいえ、少しも」
 キオは何の迷いもなく言い切った。「わたしには分かります」
「頼みがある」
 レナの声は、ほとんど懇願するような口調だ。
「はい、レナさま」
「さまは、やめてくれ。そんな柄じゃない」
 軽く苦笑して、レナは言い難そうに付け加えた。「しばらくの間だけでいい、わたしを抱いていて欲しい、なんだか暖かくて気持ちいいんだ……。どうか嫌じゃなかったら、わたしが怖くなかったら……」


《続く》






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