FC2ブログ
07« 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.»09

氷雪の漂泊者(25) 


「ひぃ……っ、誰か助けてくれぇ!」
 ネロの声に入り口を固めていたのだろう、抜き身そののままの剣を手にした男たちが乱入してきた。
「ネロさま、どうし……」
 しかし目前の光景を見るなり、彼らは言葉を失い、その場で凍りつく。
 彼らの目はネロの姿に釘付けになったままだ。
 ネロの首筋に添えられた刃が皮膚を破り、血が滲み出していた。少しずつ大きく開いていく傷口からは一筋の血が流れ出し、胸元をどす黒い血の色に濡らしていく。流れる血は身体を伝い落ちて足元に血溜まりを作り、それは次第に大きく広がっていった。
「ぐわぁぁ!」
 ネロの口から獣のような悲鳴が漏れた。
 しかし容赦なく刃は喰い込んでいく一方だ。
 刃先が筋を断ち、肉を切り裂いていった。やがて動脈を断ち切ったのだろう、不意に夥しい血が心拍に合わせて間歇的に天井へ向けて吹き上った。
 それでもネロの身体は倒れなかった。
 不自然な姿勢のまま、不気味な彫像のように立ったままだ。
 ネロの仲間だった男たちが呆然と見守る中、鈍った刃先が骨を断つ厭な音が響き、すでに絶命しているであろうネロの首はがっくりと横向きに押し倒された。
 何も見ていない空虚な目は驚きに見開いたままだ。
 やがて皮一枚で首と胴が繋がったまま、その身体は自らの血溜まりの中へ鈍い音を響かせて、ゆっくりと崩れ落ちた。その衝撃で僅かに繋がっていた皮膚が断ち切られたのだろう、首が身体から離れて床に転がった。
「わぁ……!」
 ネロの身体が倒れた音に我に返ったのか、入り口に佇んだままの男たちの口から弱々しい叫び声が漏れた。
 レナは無表情なまま、冷たい視線を男たちに向けた。
「こうなりたいか、こいつの後を追いたい者は好きにしろ」
 レナの視線に射すくめられ、男たちは怯えた表情を浮かべて落ち着かぬ様子で互いの顔を盗み見るだけだ。
「死にたくなければ道を空けろ、手向かいするな……、外の仲間にも伝えるのだ」
 その言葉が合図だったかのように男たちは踵を返し、言葉にならない悲鳴を上げながら逃げるように我先に走り出ていった。
 男たちの姿が視界から消えると、レナはキオの身体を抱き、ゆっくりと立ち上がった。
「安心しろ、仇は討った。さあ、一緒に行こう……」
 その声に軽く閉じられたままだったキオの目が僅かに開いた。
 ゆっくりとキオは頷き、そして微笑んだ。
 キオの指先が――、それが持てる力の全てなのだろう、力なくレナの腕を掴み返す。
 血の気の失せた顔は雪のように白く穏やかだった。
 先ほどの怒気など微塵もない。
 護れなかったことを心の中で詫びながら、レナはそっと静から唇を重ねた。
 どうしてそうしたのかレナ自身にもわからなかった。音もなく霧散し失われていく生命の残滓を僅かでも自分の中に留めようとしていたのかもしれない。
 レナの頬を涙が滑り落ちていき、キオの白い頬を濡らしていた。

《続く》





↓↓よければポチッとお願いします。↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ [ にほんブログ村 ] ランキングに参加してます。

↓↓作者宛メッセージはこちらへ。↓↓