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氷雪の漂泊者(07) 

夜明けの森

 朝。
 その最初の兆しは東天の極めて淡い光だ。
 厳しい寒気と共に静かに薄明は訪れる。そして次第に星々が光を失いながら青みがかった空に姿を消していく。それは夜の名残が次第に消えていく最後の過程にすぎない。
 レナが目覚めたのは、東天が僅かに色づき始めた頃だった。
 わずかに舞っていた雪は既に止み、風も凪いでいるようだ。
 何もかも凍りついたような朝だった。
 凍てついた空気を通して聞こえてくる音もない。
 僅かに身動きするだけで、その衣擦れの音だけが、いやに大きく聞こえてしまう。
 時の流れすら、厳しい寒気のために凍えて固まってしまったかと思えるほど、ゆっくりと流れていく。
 レナの目には動くもの姿はなく、ただ燃え尽きかけた焚き火から一筋の細く消え入りそうな煙りが昇っていくばかりだ。
 消えかかった焚き火にレナは漠然と目を向けた。
 まだ拾い集めた枝木は残っている。
 だが残り火に新しい薪を投げ入れるでもなく、深い溜息をつきながら、そのまま視線を森に移した。次第に明るくなっていく天空の明るさを背景にして、森の木々は黒々とした翳のような姿を姿を浮き上がらせている。
 木々の梢の上に小さな星が瞬いているのが、レナの目に入った。
(あの星も間もなく朝の光の中に没していく)
 大方の星々は、既に薄明の中に姿を消していた。
 レナの目に映る、辛うじて梢の上で瞬いている星は、闇夜であれば明るく大きく輝いていたに違いない。
 しかし今は残り火のように頼りなく瞬いているだけだ。
 レナは光を失っていく星に自己の運命を重ねた。
 故郷を追われ、祖父を失い、一人きりになった。
 祖父を手にかけた者たちに今もなお追われ続けている。
 すべては血の為だ。
 かつて一つの血の流れから、神人と呼ばれる族と、それに奉仕する雑色と呼ばれる族が生み出された。やがて二者の間に諍いが生じ、雑色によって神人は存在を消されようとしているのだ。
(もう遠からず、我ら神人と呼ばれた族は滅びるのだ、あの星のように……)
 その思いがレナにはあった。
 レナも滅びゆく血を受け継ぐ一人だった。
 そして血を同じくする者が、残りどれだけ生き残っているのか、それを知る術はない。
(だが少なくとも、この血その半分は……)
 その現実にレナは苦笑する。(もう大して意味もないのかもしれない、生まれついて汚れた存在なのだ、わたしは純血ではないのだからな)
 レナの母親は雑色の男に攫われて犯され、その結果、生まれたのがレナだった。
 その生まれのために、レナを謗る同胞もいたのだ。
 だがレナの持つ力が、彼の血統がどちらに傾いているかを如実に語っていた。
 そして彼自身、神人の最期の一人として滅んでいくことに密かに誇りすら感じていたのだ。誇りを持ち自分が何者であるか――、それを思わずには今まで生き延びられなかったのだ。



《続く》






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