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氷雪の漂泊者(08) 


 レナにとって故郷の村の無残な姿は忘れられないものだった。
 黒煙の中にくすぶり続ける打ち壊された家々、大地を赤黒く染めた大量の流血の痕跡――。今でもその光景を克明に思い出す事ができる。襲撃された時、たまたま村を離れていて難を逃れたレナと祖父は呆然と立ちすくむしかなかったのだ。
 生き延びたのは二人だけだった。
 破壊された村の跡を隅々まで探し、しかし誰一人して見つけることはできなかった。
 生きている者はもちろん、犠牲となった死者たちも。
「みんなを連れ戻さなきゃ」
 幼いレナは祖父に訴えた。
「もう遅い、おそらく誰も生きてはいないだろう……」
 しかし祖父は力なく首を横に振るだけだった。
 そして何よりも生々しく記憶に残っている恐怖は、遺骸が一つとして残されていない理由を祖父から聞いた時のものだ。
「喰うのだ」
 祖父は吐き捨てるような口調で答えた。
「あやつらは、我らの肉を喰らい、血を啜る。それによって我らの持つ力を得ることができる――、そう信じているのだ」
 祖父からその言葉を聞いた時、まだ幼かったレナは声を上げて泣いた。
 泣いた事はよく覚えている。
 ただ、それが何のための涙だったかは思い出せない。
 祖父の強張った顔に怯えたのか、血肉を啜られる恐怖だったのか、あるいは別の理由があったのか――。
「やめよう、昔のことなど。何の意味もないのだ」
 弱々しく呟き、よろよろと立ち上がった。
 既に空は白み始めている。
 何にも増して追っ手の事が気掛りだった。
 おそらく既に行動を起こしているに違いない。それを思えば、ぼんやりと時間を浪費しているわけにはいかなかったのだ。
 強張った身体の節々が悲鳴を上げた。
 その痛さが妙に心地よい。
 それこそが生きている証だとレナは思った。
 火を踏み消し、袋を背負う。
「どこへ」
 一瞬の逡巡の後、レナは森の中に向かって歩き出した。
 もう空は既に蒼く、星の姿は既にない。
 だが、これから向かおうとする森の底は、まだ深い暗がりの中に沈んでいた。



《続く》






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