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氷雪の漂泊者(10) 


 村の周囲は太い丸太で組まれた、おそよ人の背の倍は有ろうかと思われる高い柵に囲まれている。その先端は鋭く尖り、柵を乗り越えての侵入しようとする者の気力を萎えさせるには十分だ。
 そして侵入者の助けとならぬように柵から一定の範囲の森林は、ことごとく切り払われて濠が巡らされていた。
 柵に沿う形で東西南北の各方向には見張り台が築かれ、昼夜を問わず見張りの人員が配されて監視の任に当たっている。
 唯一の出入り口である門は、柵と同様の太い丸太で組まれた頑丈な跳ね上げ橋で、普段は閉じられていた。
「門を開けよ」
 村長のハーンは門番に命じた。「客人を迎え入れるのだ」
 その命に従い門番達は作業に取り掛かった。人の腕以上の太さがありそうなロープの軋る音が響き、ゆっくりと跳ね橋が下がっていく。
 その光景をハーンは見守っていた。
 この跳ね橋は村長の命がなければ、開閉は許されない。
「叔父貴、どうして神人など村に招き入れようとする」
 ハーンは背後から浴びせられた不意の怒声に、ゆっくりと振り返った。
「ネロよ、おまえも知っている筈。それは我ら一族が自ら定めた古よりの契約なのだ。異を唱えることなど許されぬ」
 疑問を差し挟む隙を与えぬ断定的な口調でハーンは言い、ネロから背を向けた。
 そして再び、下がりつつある跳ね橋に目を移す。
 その行為はネロを激昂させた。
 深い髭に覆われた顔はたちまち怒りに赤く染まり、目がつり上がる。
「それでは我らに死ねと言うに等しいではないか。神人など――、彼らの命数は既に尽きている。我らまで共に滅びていけと、長のあなたが命じるのか!」
「そうだ。われらの祖が定めたのだ、神人と共にあれ――、とな」
 ハーンは短く言い放った。「これ以上の問答は無用。ネロよ、任に戻れ、柵の守りを固めるのだ。決して何人であろうと里に立ち入らせるな」
 それだけを言い残し、ハーンは立ち去った。
 しかしネロはハーンが立ち去った後も、その場に立ち尽くしたままだ。
 どこにも向けようのない憤りが、固く握り締めた拳を震わしている。
 不意にネロの内に笑いがこみ上げて来た。
 それは暗澹たる悲惨な衝動だ。
 こみ上げるものを隠そうともせず、ネロは歩み始めた。


《続く》







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