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続山月記(08) 


「ええ、この道をまっすぐに行きなされ。すると楡の大木があります。そこを右に入ったところが紀家です」
 そう説明しながら、吉の目は礼を失しない程度には相手を観察し続けていた。
 道士らしい――、いかにも鷹揚な雰囲気を漂わせた男だ。
 だが男の目は、全体の雰囲気とは逆に、道士にふさわしくない鋭い光を留めていた。禍々しい――、そんなものを感じさせる目だ。
 吉には男が油断のならないものに思えた。その鋭い目のうちに、なにやら尋常ならざるものを感じたような気がしたのだ。
「なるほど。ご親切に、ありがとう」
 一瞬、道士の顔に皮肉な笑みが浮かんだように見えた。
 どこか異様な、凄味のある笑みだ。その場から立ち去ろうとしていた吉は、その一瞬で、まるで金縛りにでもあったかのように身体の動きを止めた。
「どうやら、あなたは私を警戒しているようですな、だがそれは、無用の心配と云うものです。まあ、あなたの立場では警戒するなというのは無理な相談かもしれぬ。私は死んだ玲の夫の従兄弟でな、名を董と云う、見かけどうりの道士です。鯤は私にとっても可愛い身内、残念なことに葬儀には間に合わなかったが、せめて後片付けなど、手伝ってやろうと思いましてな。この里には暫く厄介になる予定、宜しくお頼みもうします、里長どの」
 吉は毒気に当てられたような気がした。
 はっと我に返ったとき、先ほどの男の後ろ姿が雨に霞み、既に遠く小さくなっていた。
(なぜ、里長と……)
 吉は、ぶるっと身体を震わせた。
 記憶を手繰り、もう一度、男と交わした会話を思い出す。名乗った記憶は無かった。
(何とも気味の悪い男だ、用心するに越したことはない。もっとも道士などという輩は、あんなものかも知れない)
 そんな不吉な思いを振り払うに何度か頭を小さく振ると、吉は里への道を再び辿り始めた。

《続く》






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