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続山月記(10) 


 朝。
 目覚めた亮は、抱いたまま眠っていた青の身体がひどく熱っぽいのに気付いた。いや、熱ばかりではない。小刻みに身体が震えているのだ。その上、ひどく寝汗をかいているようだった。
 慌てて亮は弟の額に手を当てる。その熱さは尋常な熱さではない。
「大変だ……」
 亮は弟を起こさぬよう、そっと床を抜け出し、足音を忍ばせて部屋を出た。
「ん、なんだ」
 なにやら屋敷中が妙な異様な雰囲気だったのだ。
 いつもの穏やかな朝とは違い、何かざわついている様子だ。それに今日に限って使用人たちの姿が疎らで、とくに男たちの姿が見えない。
「小螢、ああ、よかった。青の様子が変なんだ。早く父にも伝えないと……」
 ようやく見つけた召使の一人に亮は声をかけた。
 小螢と呼ばれたのは、それほど亮と歳の違わぬ若い娘だ。
 小螢は袁家の遠縁に連なる娘で、召使というよりも、行儀見習いのために袁家に奉公へ上がっている娘だった。
 亮とは既に数年来の付き合いで、その上、歳が近いこともあり、亮にとっては心安い相手だ。その彼女が、かわいそうに思えるくらい、不安そうな青ざめた面もちをしていることに亮は気づいた。
「どうしたの、そんな青い顔して。それに屋敷の様子が変だけど何かあったの?」
「また虎が出たようなのです、それも今度は里に……」
 小声で囁くように言いながら、まるで虎の気配を感じたかのように小螢は辺りを窺った。「ほんとに怖い……。台所の皆も、おびえてます」
「大丈夫だよ、屋敷の中でじっとしていれば」
 そう言いながらも、昨夜、青が見たと云う夢の内容が、まざまざと甦えってくる。
 自分でも屋敷の中に居さえすれば大丈夫などとは、とうてい信じられない。気休めとしか思えない。しかしその言葉を口にしたのは、それ以外に怯える彼女を慰める言葉が見つからなかったのだ。
「今度は五人も……、お気の毒に家族全員が皆な殺されてしまったとか。旦那さまは里長の李さんと一緒に出かけられました、朝早く」
「まさか。それって昌の……、衛昌の家ではないだろうね」
「なぜ、それを」
 小螢は、亮の答えに驚いたように亮の顔をのぞき込んだ。
「あ……」
 瞬時に亮は小螢の瞳に浮かんだ疑問の色を理解した。「誰かが大きな声を話すのを聞いたような気がしたんだ、今朝。でもそんなのは夢かと思ってた」
「ああ、なるほど……」
 合点した様子で小螢は小さく頷いた。「そうですね。朝早く、血相を変えて里の人が走り込んできて大騒ぎでしたから。それこそ、お盆をひっくりかえしたような……。やはり坊っちゃんたちのとこまで聞こえていたのですね。旦那さまのお言いつけで、起こさないようにと。それで皆、慌てて声を潜めたんです」
 亮は眩暈を感じた。正夢というものだろうか……、呆然とそう思った。
「大丈夫ですか、とても顔色が悪いわ」
「ああ、僕は大丈夫だよ、なんでもないんだ、昌の話に驚いて……、彼とは仲良しだったから、あまりのことに驚いてしまって。少しの間、一人にしといてくれないか。僕の事は心配しなくてもいい」
 亮は額に手をやった。粘っこい汗が浮かんでいる。その汗を手で拭いながら言葉を続けた。「あ、そうだ。びっくりして肝心なことを忘れるとこだった。青の様子を見てやってくれないか。とても具合いが悪いみたいで、熱があるんだ。いまは僕の部屋で寝ているから」
「まあ、大変、わかりました。さっそく御医者様を呼ばないと」
 亮は呆然と立ち尽くしたまま、小走りに駆けて行く小螢の後ろ姿を見送る。何かよくないことが起きそうな――、そんな嫌な予感がしてならない。
(でもこれ以上、どんな悪いことが……)
 そう思いながら、亮は思わず身震いした。(これ以上、悪いことなど……、何があると言うんだろうか)

《続く》






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