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夏の記憶(02) 


「あんなに泣いてたのに聡ってさ、今度カブトムシいっぱいいるとこ教えてやるから――、そう言われたら、とたんにケロッと機嫌が直った。昔から現金なやつだったんだな」
「そんなに笑うなよ」
 ぼくはムッとしながら答えた。
 その態度には少し怒れてしまうけど、しかし康介には悪気はないし、喧嘩をふっかけているわけでもない。昔から、こういう奴だったから。もう長い馴染みだからこそ、少しも悪気のない事を知っている。
 だからこそ、ぼくだって大げさにムッとした顔もできるのだ。
 こういう時、喧嘩にならない秘訣は深呼吸だ。ガス抜きしなくっちゃ――、ぼくはそう思いながら、大きく深呼吸を実行した。一回、二回、って。
 その効果はあったと思う。
 いらついた気分は不思議なくらい、きれいさっぱり消えてなくなったからだ。
 そして、ぼくはある事に気がついた。
 ぼくらと一緒に写真に写っている男の子の名前がどうしても思い出せないのだ。
「そういえばさ、この子って誰だっけ?」
 ぼくは写真に写っている麦わら帽子の子供を指差した。
「ええと……、あれ、変だな。思い出せない……、どうしてだろ」
 康介は不思議そうに首を傾げた。「知らないやつじゃないんだ、こんなやつがいた――、それはちゃんと憶えてるのに、でも、おかしいな」
「うん、とっても懐かしい感じがする、何度も一緒に遊んだ気がするのに、どうしても名前が思い出せない」
 そう、とても懐かしい顔なのだ、ぼくとっては……。きっと、それは康介にとっても同じだったと思う。真剣な顔して悩んでるようだったから。でも近所には同じような年頃の、こんな子はいなかった、それじゃ、いったい誰なんだろう――って、今さらながら気がついたのだ。
「そうだ!」
 ぼくは立ち上がって、本棚から小学校の卒業アルバムを取り出した。
 それを見れば何か思い出すかもしれないし、ひょっとしたら単純な思い違いかも――、そんなことを思いながら一ページずつ繰っていく。
 アルバムには似たような子供っぽい顔が並んでいたけど、その写真の子、それとぴったり一致する顔は、どうしても見当たらない。
 でもどこか遠くから、たまたま遊びにきてた子とかじゃない気はする。
 ぼくらが森へと一目散に駆けていった時、その子がぼくらの先頭を走っていった記憶があるからだ。とこか他所の子だったら、森の場所なんて知らないはずだ。そして薄暗い森にも一番に入っていったと思うのだ。
「そういえば、夜に来たら教えてやるからさ――、たしかそう言われたけど、あれから行ってないな……」
 ぼくは自分の記憶を手繰り寄せながら呟いた。ということはあの森の――、あれは神社の鎮守の森だったから、その近くに住む子なのかもしれない。そう思って、ぼくはもう一度考えてみた。
 だけど誰一人として思い当たらない。
 そんな事を考えていた時だ、康介がとんでもない事を言い出したのは。
「行ってみようか、なにか思い出すかもしれない」
 ぼくは驚いて康介の顔を見た。
 今は夜で、それにもう真夜中に近い時間なのだ。こんな時間なのに何を言い出すのだろう――、そう思いながら半分以上は呆れてだ。
「こんな時間に?」
「どうせ暇だし、散歩がてらにさ。何か思い出すかもしれないし、もちろん森の中には入らないよ。まだ月食まで時間があるし――、それは晴れればの話だけどな」
「そうだな、それだったら行ってみようか」



《続く》






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