FC2ブログ
08« 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.»10

いつか見上げる空の色(58) 


 何か聞こえてくる……。
 ぼくはまだ眠いのに、いったい何の音だろう――、目を閉じたまま、そんなことをぼんやりと思う。でも決して騒がしいとか嫌な感じの音じゃない。それどころか、とても優しい懐かしい感じがする音だ……。
 そうか――、ぼくはその音に聞き覚えがあることを思い出した。ああ、どこか遠くから小鳥のさえずりが聞こえてるんだ――、って。
 朦朧とした状態から少しずつ意識がはっきりとしてくる。閉じたままの重いまぶたの向こう側、ぼくを包む世界が真っ暗な夜じゃないことが何となく判ってくる、もう朝なんだ――。
 とても暖かだった。
 心地のいい暖かさに包まれて気持ちいい、このままずっとこうしていたい――、そんな誘惑がぼくを惑わす。もう少し、あと少しだけ――、そう囁きかける声に抗い、朝なんだから起きなきゃ――、そう思いながら、ぼくは無理やり思いまぶたをこじ開けた。
「あ……」
 間近からコウさんの目かぼくをじっと見つめていた。
 その瞬間、ぼくは山の中で白い雪に覆われて凍えて死にかけている――、そんな記憶が唐突に脳裏に浮かび上がってきたのだ。記憶だけじゃない、情景までがはっきりと蘇った。ここはどこなんだ、これは夢なのか――、記憶が混乱して、夢と現実の境界が入り混じり、何が何だか分らなくなってしまう。ぼくはパニック寸前だった、ほとんど泣き叫びたい気分のまま、思わず周囲に目を走らせていた。
「大丈夫だから、落ち着くんだ」
 耳元からコウさんの声が響いてきた。
 そして強く抱き寄せられるのを感じた。暖かな皮膚の感触に、さっき感じた心地よさを思い出す。ああ、そうか、ぼくはずっとコウさんに抱かれていたんだ、これは夢なんかじゃない――、そう思いながら、ぼくは次第に現実を取り戻していた。ここはコウさんの部屋で、ぼくはコウさんの腕に抱かれて眠っていたんだ――、そんなことを今さら気づく。しかも二人とも裸のままなのだ――、それを知った時、昨日の夜の記憶が蘇ってきて、ぼくは思わず叫ぶところだった。
「あの……」
 ぼくは上目遣いにコウさんの顔を窺った。何だか眩しく思えてしまい、とてもまともには見ることができなかったのだ。「えっと、あの……」
「おはよう」
 コウさんは明るく言いながら、ぼくを抱いたままの腕に力を込めた。
 そしてぼくらは顔を寄せて唇を重ねあった。
 ぼくもおずおずとコウさんの背中へと腕を伸ばし、力を込めて抱きしめる。互いの肌と肌が触れ合って、とても暖かだ。その温もりが懐かしい――、そんな気さえしてしまう。
 ここがぼくの居場所なんだ――、ぼくはそれを実感した。
 そして今のキスで昨日の出来事が夢なんかじゃなくて本当の出来事で、それは少しも恥ずかしがるようなことじゃないんだ――、そう悟ったのだ。もちろんコウさんの気持ちもだ、ぼくのことを本当に大事に思ってくれていることを。
「今日は例の面談だから、一緒に大学へ行こう。大変な一日になるかもしれないけど、ずっと一緒だからな、もちろん今日だけじゃないぞ」
 額を寄せ合いながら、ぼくらは間近で見つめあった。
「うん……、ありがとう」
 言葉に詰まりながら、ぼくは答えた。
 しばらく離れ離れになるかもしれない――、それを思うだけで涙が溢れそうになってくる。でも今は泣いてはいけないんだ――、そう思いながら、ぼくは耐えた。
 コウさんの考えてくれた方法、きっとそれが最善の方法なのだと思う。いつまでも家出少年のままじゃいられない――、ぼくは心の中で呟いた。いつかコウさんと暮らす日のためには、寄りかかっているだけでは駄目なのだ。

《続く》



平穏な朝っていいですね、やだなあ…って思いながら無理やり起きる朝よりも……。



↓↓よければポチッとお願いします。↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ [ にほんブログ村 ] ランキングに参加してます。

↓↓作者宛メッセージはこちらへ。↓↓