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瘴気沼奇譚(10) 


 ナージは里の裏手に広がる丘の上にいた。
 その丘は幾つも連なる丘陵のなかでも一番の高地だった。眼下には街道に沿って粗末な里の家々が軒を連ね、街道は瘴気沼を避けるように大きく迂回しながら延々と続いている。
 沼の中ほどに浮かぶ小島には、赤茶けた岩肌に張りつくように黒々とした城館の廃墟が見えていた。どんよりと島の周囲だけが煙ったように見えるのは、沼を覆う瘴気のせいなのかもしれない。
 一方、里に背を向けて反対側を見渡せば、里を見守るように幾つかの丘を占めて白い墓標が点々と並んでいた。
 そのさらに向う側には、遥か遠くの樹木に覆われた山際まで続く広大な穀物畑だ。
 なだらかに続く丘を覆う畑を縫うように細い小道が延々と伸びている。その小道の続く先には、幾つもの小さな集落が点在している様子が窺えた。
「ん?」
 ナージは足を止め、じっと耳を澄ました。
 歌だ――、ナージは低く呟いた。
 それは風に運ばれて、途切れがちに聞えてくる微かな歌声に違いなかった。


    わたしは小鳥、遥か空の高みを目指す鳥
    風は揺りかご、空の懐に護られて
    世界の果てを夢見る鳥は
    羽ばたきながら夢を見る
    見知らぬ異国の街角を


    わたしは小鳥、遥か空の高みを目指す鳥
    風に揺られて、羽ばたきながら
    世界の果てを夢見る鳥は
    いつか散る日の夢を見る
    往きて帰らぬ街角を


 誰かが歌っているのだ。それは悲しげな声だった。
 ナージの視界の中に歌い手の姿はなく、その歌声は丘を越えて聞こえているようだった。
 その悲しげな歌声が止んでしまうまで、ナージは身じろぎもせず目を閉じたまま耳を傾けていた。歌声が途絶えてしまうと聞こえてくるのは、丘の間を渡っていく風の音、そして小鳥のさえずりだけだ。
 すっかり耳に馴染んてしまった柔らかな歌声が聞こえなくなったことに寂しさを感じながら、ナージは墓標の点在する丘を歩きはじめた。


<<続く>>




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