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黒き輪廻、蒼天の輪舞(13) 


「もう行ってしまうのですか、兄上……。今宵は館にお泊りになれば」
 媚びを含んだ声が仄暗い室内に響いた。
 それは責め苦の果てにぐったりと満足げに裸身のまま横たわる若者の声だった。「チェーザレ兄上、夜道は……」
 危険です――、そう続けようとした若者は、チェーザレの険を帯びた視線に怯んで、それ以上続けることができなかった。
「心配するな、ホアン。賊など恐れるに足りぬ。そんな輩は川に浮かべてやるだけだ。もっとも俺が怯むほどの賊ならば、それはそれで楽しみだがな」
 そう言い放って微かに笑う。
 氷のように冷たく、鋼の刃のように鋭い笑みだ。その笑みにホアンは背筋に冷たいものすら感じていた。弟の感じた恐怖など構わずに、チェーザレは続ける。
「それに一人ではない。従者と一緒だ。あの男は腕がたつ」
 ホアンは兄の言う従者の姿を、忌々しい思いと共に思い浮かべた。
「……」
 常に黒衣を身にまとい、無表情な仮面で顔を隠し、チェーザレに影のように寄り添う若い男。
 その黒衣の背中に流れ落ちる金髪の妖しげな印象がホアンには残っていた。男の無駄のない、しなやかな動きは時として鞭を思わせる。ホアンは従者の剣の腕前は未だ知らないが、チェーザレが言うからには確かなのだ。
 少なくとも無駄のない、しなやかな身のこなしは尋常の者とは思えない。
 チェーザレは夜にだけ、その『従者』を連れ歩いていた。
 昼間は一度たりとも、その姿を見かけた事はない。その男は夜の闇と共に現れる――。昼間は公式の席に連なるどころか、その近くでさえ見かけることすらない。
 ホアンは半ば本能的に黒衣の従者に危険で不吉な気配を感じていた。しかし、その思いを兄に話そうとは決して思わない。そんな事をすれば、たちまち兄の怒りに触れる事は確実だったからだ。
 ホアンにとって、何よりもチェーザレを失うことが恐ろしいことだった。
 一度、その心に決めたことは決して曲げようとしない、頑なな、干渉されることを極端に嫌う兄だったのだ。
 その頑固さには時として父法王アレッサンドロですら従わざるを得ない。
 それも決して我がままに言い分を通すのではなく、理詰めで相手を屈服させるのだ。
 たった一歳しか違わぬ兄弟とはいえ、惰弱な――それがホアンに対する世評だったが――ホアンにはない威厳がチェーザレにはあった。
 もっともホアンにとっては、兄のそんな魅力に強く引かれ、離れられないでいるのは確かなのだ。
 チューザレが心に決めた以上、いまさら何を言っても無駄なのだ。その事を誰よりもよく承知しているホアンだった。
 ホアンは軽く溜息をついた。
「兄上、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
 重たい扉を押し開きながら、ほんの一瞬、チェーザレは弟に目を向けた。
 その目は全ての興味を失ったかのような醒めた目だった。


<<続く>>




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