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旅路の果て(04) 


「わぁ、こりゃ凄いな」
 ぼくは両側に高くそびえる建物を見上げた。
 遠くからは光り輝く壮麗な都市と見えたもの――、それは巨大な、広大な廃墟だった。想像もできない量の砂に埋もれて、いきなり砂地から建物が突き出しているように見えていた。建物の外壁の多くは崩落し、赤茶けた鉄骨が露わになっている。
 その光景を眺めていると、たちの悪い悪い冗談みたいな気がする。
 まるで無数の巨大な墓石が砂漠からニョキニョキと突き出しているようだ。ここで暮らしていただろう人々の名前こそ刻まれていないけど、巨大な墓地には違いない。
「おい、早くしろ、こっちだ」
 その声に顔を上げると、ぼくに向かってラグが手を振っていた。
 つい感慨に耽ってしまい、ぼんやりしてしまったのだ。ラグはずんずん歩いていき、ぼくは慌てて後を追う。
 だけど廃墟は堪らなく魅力的で綺麗だった。
 キラキラと輝いているのは太陽の光を受けたガラスの欠片だ。朽ちた建物の壁際だけでなく、地上も無数の煌きがあった。上から落ちてきた欠片が砂に混じりあい、砂に含まれていた雲母の結晶と一緒になって輝いているのだ。
 やがて遠い未来には全ての廃墟は崩れ落ちて地に臥すだろう。ついには何もかも砂に埋もれてしまい、単なる大きな丘へと姿を変えるはずだ。だけどその時になってさえ、キラキラと輝き、かつての栄光を主張し続けているかもしれない。
 ぼくらが歩いている地表は無風状態に近い。だけど遥か上の方では風が舞っているようだ。風が吹き抜けていく音が唸りのように低く響いていたからだ。
 きっと人々が暮らしていた頃は誰も気にしない程度の音だっただろう。でも今は無人の静寂に満ちた街角だった。遥かな高みに発した風の音が、まるで死者たちの囁きのように陰々と響いてくる。

 ぼくらは廃墟の街を半日ばかり彷徨った。
 もっとも彷徨ったと感じているのは、ぼくだけだ。
 ラグは目標を見失うことなく、たとえ崩れ落ちた廃材の巨大な山に進むべき道を塞がれて引き返す事があったとしても、廃墟の中の一点を目指していることは明らかだった。
「ここだ」
 ラグは、ひょいとガラスも何もなくなってしまった窓枠を跨ぎ越した。
 とても軽い身のこなしだ。いつもながら感心してしまう。ぼくは幾らかぎこちなく、彼を見習って建物の中に入りこんだ。
 外界と同じように、フロア全体が砂に覆われていた。
 風に舞う砂の粒子に長年に渡って晒され続け、すっかり白くなってしまった床材が所々に露出している。おそらく朽ち果てた調度の残骸なのだろう、至るところに吹き溜まった砂と交じり合った小さな瓦礫の山が点在している。
「思ったほど砂の侵入はないな」
 ラグが低く呟いた。「だけど目的地は地下だ、砂に埋もれてたら諦めてもらうしかないぞ、ラツィ」
「そうだったら残念だな、せっかくここまで来たのに」
「ま、行ってみないと分からないけどな」
 ラグは言いながら悪戯っぽく笑った。楽天的な性格なのだ。「フロアの中の砂は意外に少ないから、きっと大丈夫だ」
「そうだといいけど……な」
 ぼくは少し不安な気持ちになってしまう。
 都市の廃墟に遺された記憶を収集し、記録する事がぼくの仕事だ。
 それが果たせないとなると、ぼくはラグの単なる足手まといでしかないからだ。
 ぼくらは巨大な廃墟の中を行ったり来たりしながら、かつてエレベーターホールだった場所に出た。腐食し半ば崩壊した壁面に沿って、いくつも虚ろな黒い口がぽっかりと開いている。
 ぼくは妙な不安を感じた。
 黒い入り口が、まるで不吉な罠のように思えたのだ。
「それじゃ先にぼくが行く。ほら見てみろ、まだメンテ用のハシゴが残ってるから楽勝だ。下に着いたら呼ぶから、ここに待ってろ」
「うん。わかった」
 ぼくはラグに不安を伝えようか、迷った。
 だけどすぐに小さく首を振って諦めた。いつもみたいに臆病さを笑われるだけだ――、そう思ったからだ。
 ぼくを安心させるように小さく微笑むとラグは背を向け、黒い穴の中に姿を消した。

 不安を宿したまま、ぼくはラグの声を待っていた。
 恐る恐る覗き込むと穴の底は真っ暗だった。夜の闇とは違う、本当に真っ暗な闇の中だ。その中に小さな光が、ひとつだけ動いているのが見えた。
 きっとラグが地下の廃墟の様子を探っているのだ。
「ラツィ、聞こえるか。下は大丈夫だ、気をつけて降りて来いよ」
 こだまを響かせながら、ラグの声が聞えてきた。

《続く》





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