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大唐夜話(05) 


 衝州の地は縦横に水路が走り、細い水路はやがて大河へと連なっていく。
 陸路を行くよりも、舟を用いた方が移動の便が良い。
「それでは」
「よいか、身体には気をつけるのだぞ。何かあれば、遠慮はいらぬ。この叔父を頼るのだ」
「叔父上、叔母上も、どうかお元気で」
 叔父夫婦に見送られ、王宙は舟中の人となった。
 倩娘は見送りに来なかった。叔母によれば、この数日、気分がすぐれず、臥せっているのだという。
 王宙も倩娘に会うのが怖く思われて、この数日間、顔を会わせていなかった。
 倩娘はもちろん、叔父や叔母にも、もう会うこともないだろう――、その事を固く心に誓っての旅立ちだった。
「これでよいのだ……」
 そう云いながら、涙が流れる。
 目を閉じれば、倩娘の姿が思い浮かび、耳には甘い声が甦る。
(叔父が決めた相手だ、人柄に間違いはあるまい……、幸せになってくれ)
 舟は漂うように、ゆっくりと動き出す。
 川面を漂う霞の彼方に見送りの人々の姿が見えなくなるまで、王宙は涙を拭おうともせず、慣れ親しんだ衝州の地の地を見つめ続けていた。

 夕刻になり、舟は数里離れた山裾の村に泊まった。
 舟着場の周囲には葦が茂り、風が吹くたびに悲しげに鳴る。
 いや、悲しげに聞こえたのは、王宙だけだったろう。
 実際、涼を含んだ風は心地よいものだったから。
 深夜になっても眠れず、横たわったまま、じっと天井を蔽う幌を見つめ続けていた。
 葦が風にそよぐ音に混じって、ひたひたと走る人の足音が近づき、やがて王宙の舟の間近で止まった。
「誰だ」
「わたくしです、お兄様」
 それは渇望していた声だった、もう二度と聞く事の無いと心に決めた声だ。
 王宙は跳ね起きた。
 淡い月の光の中に、倩娘の姿があった。
 美しい頬をつたい落ちる涙の雫が光っている。
「ああ、倩娘、いったいどうしたというのだ」
 云いながら倩娘に手を差し伸べる。
「なんて冷たい手なんだろう」
「お兄様、お慕いしております、どうか、このまま……」
 王宙は倩娘が裸足ということに気付いた。
 泥に汚れた白い足が痛々しい。
「月夜だといっても、もの寂しいこの村まで、どうやって」
「お兄様のことを思い、もう逢えぬのだと嘆き悲しみながら、この身を切る辛さに耐えられず、臥せっておりました。ここ何日かは、食べ物も咽喉を通らず、いっそこのまま死ねたらと、そんなことすら思っておりました」
「なんという事を……」
 思いつめた倩娘の顔を見ていると、それ以上、王宙には言葉が見つからない。



《続く》





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